◆ルイス・キャロルの原作を初めて映画化した8分の短編(80点)
この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。
昨年、WHDジャパンからDVD「不思議の国のアリス1903―1915」が発売されたのは、「アリス」ファンにとってはうれしい驚きだった。「アリス」の世界初の映像化である1903年版と、原作の挿絵を描いたジョン・テニエルの世界を忠実に映像化したとされながら、日本未公開で長らく幻の作品とされていた1915年版の2本が収録された、実に魅力的なDVDだった。両作は、ティム・バートンの3D映画「アリス・イン・ワンダーランド」の原点ともいえる。バートン版と併せて見ると大変に興味深い。
本作は監督、脚本、撮影、出演がセシル・M・ヘプワース、共同監督がパーシー・ストウ。アリスはメイ・クラークが演じている。もちろん、モノクロ、サイレントだ。
100年以上前の文化財的な作品であり、8分の短編なので、どのように点を付けてもしっくり来ない。本来、点など付けようがない。それでも「映画ジャッジ」の趣旨に則り、無理やりに採点してみた。80点は高いようでもあり、低いようでもある。
8分ではあるが、「アリス」の物語をハイライト集のような形でほぼ忠実になぞっている。現在の目からすると、特撮は明らかに稚拙だ。だが、アリスが大きくなったり小さくなったりするのを、役者がカメラに近づいたり、カメラから離れたりして表現するなど、余りに素朴な手法がかえって新鮮で面白い。ミニチュアの部屋に入って「巨大化」を表す場面などにも、同様の楽しさがある。特撮の原点は、映画の原点でもあるのだろう。着ぐるみのウサギ、消えたり現れたりするチェシャ猫も不気味だった。バートンが作ったロールプレイングゲームのような主人公の成長物語より、不思議な「夢」の雰囲気ははるかによく出ている。
大昔の作品なので画質は相当に悪いが、映画としてのワクワクとする面白さは、今見ても味わえると思う。
(小梶勝男)