求女らの置かれた状況が非常に身につまされる作品だった。(点数 60点)
(C)2011映画「一命」製作委員会
地面に落ちて割れた生卵を腹ばいになってすする。もはや武士として、
いや人間としてのプライドすら捨ててもなおその日の食事にも困るほ
どの窮乏生活。おまけに病気の妻と乳飲み子を抱えている。収入のあ
てもなく換金できるものは皆売り払い、残されたのは竹光の脇差だけ。
そんな男が進退きわまった末に取った行動は、筆舌に尽くしがたい苦
痛と恥辱にまみれた最期で終わる。映画は、太平を謳歌する江戸、勤
務先である藩をつぶされた浪人のあまりにも悲惨な末路を描き、その
上で、人の命よりも体面を重んじる武家社会の理不尽さを説く。
【ネタバレ注意】
半四郎と名乗る食い詰浪人が井伊家の庭先で切腹したいと申し出る。
困惑した家老の斉藤は、以前、求女という若侍の“狂言切腹”に竹光
で腹を切らせ、のたうちまわりながら死んだ話を半四郎に聞かせる。
武家に生まれたが故の「つぶし」のきかなさが求女の首を絞めていく。
それでも他人の目があるところでは見栄を張り、妻の薬代・赤子の医
者代のために屈辱に耐えている。それに比べて、折れた竹光で自身の
腹や胸を突く痛みなど、求女にとっていかほどのものでもなかったは
ず。カメラは求女の感情を真正面からえぐり出し、不運な人生に対す
る彼の憎しみを投影する。
倒産した会社の元社員が日雇派遣に転職したり、生活費や家のローン
に困った挙句に心中を図るなど、21世紀の現代でもありそうな題材で
求女らの置かれた状況が非常に身につまされる作品だった。
(福本次郎)