◆1976年に公開されて大ヒットした韓国初の本格的ロボットアニメの最新デジタルリマスター版。日本のアニメが洗練されすぎて失ったプリミティヴな魅力がここにはある(66点)
韓国では伝説的なアニメという。「マジンガーZ」にかなり似たデザインのロボットに、テコンドーの使い手が「ガッチャマン」みたいなヘルメットで乗り込み、テコンドーを駆使して悪のロボット軍団と戦う。相手は北朝鮮を思わせる「アカ帝国」で、試合で負けたテコンドー選手、プロレス選手、剣道選手などをロボットに改造し、操って人類を滅亡させようとする。なぜ試合に負けた選手ばかりを選んでいるかというと、「負けた恨み」を利用するから。さすがは「恨(ハン)」の国である。
日本アニメの様々な影響を感じさせながらも、韓国独特の岩山と滝の風景がファンタジックで、まるで民話の世界のようだ。ロボットがテコンドーの技を使う描写は、かなり奇妙だし、主人公を慕う少年が何故かヤカンをかぶっているのもおかしい。ロボットアニメとしては見慣れた風景なのに、どこかが違う。それは、韓国あるいは東南アジアのデパートに入った時の印象と似ているかも知れない。日本のデパートに似ているけれど、売られている品物が微妙に違うのが、妙に面白いのだ。
アカ帝国のボスが悪の道に入った原因は、自分の頭のデカさを学会で笑われたからだった。この学会の場面がすごい。とにかく、頭がデカイというだけで、みんながゲラゲラと容赦なく笑う。アングラアニメの傑作「二度と目覚めぬ子守唄」(1985)を思い出してしまった。あれはアングラだからいいが、身体的特徴をこのようにバカにする描写は、現在は一般向けアニメではタブーだろう。だが、ここまで容赦なく笑うからこそ、悪のボスと化す博士の悔しさも伝わってくると言える。主人公たちと、悪人たちとの間で揺れ動き、「妖怪人間ベム」の名セリフ「早く人間になりたい」を叫ぶ美少女ロボットは、南北分断の悲劇を連想させて、カン・ジェギュの「シュリ」(1999)や「ブラザーフッド」(2004)と同じくらい悲しい。蹴りや突きが炸裂するロボット同士の戦いは、最後は相手がバラバラになるまで行われ、異様な迫力だ。
勧善懲悪で子供向けだが、日本ロボットアニメの韓国風アレンジが実に面白く、この珍妙さを是非、体験して欲しい。現在の日本アニメにはないプリミティヴな魅力も感じられるだろう。
日本語字幕が何だか変なのも、大いに笑える。知的で紳士的な博士が突然、アントニオ猪木ばりに「やってやろうじゃねえか」などと言い出す。「映画秘宝」のこども商事(とギンティ小林さん?)の字幕監修だからだろう。
(小梶勝男)