ワールド・ウォーZ - 青森 学

ゾンビ映画とはタカ派が好む映画であると思う。 (点数 80点)


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“World War”というくらいだから第三次世界大戦のシミュレーションかと思っていたが、ゾンビ映画だっ た。
ゾンビ映画にはあまり詳しくはないのだが、それでも自分の見解を開陳したい。

ゾンビ映画とは本質的には人間不信が主題の映画であると思う。

同じ人間だった者がある日突如として敵に変わる。そこには人間は本質的には信用できないと いう考えが根底にある。

今作でもゾンビと化した市民が隣人を襲ってアメリカ全土が内乱状態になるのだが、アメ リカは南北戦争を経験しており、同じ色の肌、同じ色の瞳を持ち
ながら思想が違うだけで殺し合った経緯がある。
マーシャルローのもとゾンビと人間が殺し合うのはこれを戯画化したものに他ならない。

市民は銃を取りゾンビに対抗していくのだが、これを見ているとアメリカ市民は武装する権利 を保障するというアメリカ憲法を擁護する内容である。
おそらく全米ライフル協会の会員も我が意を得たり、と膝を叩いているのではないだろうか。
そういった意味でもこの映画は共和党寄りの作品である と言える。

『アイ・アム・レジェンド』でもそうだったけれど、アメリカ人には内乱とゾンビが心の原風 景にマッチするらしい。
それはゾンビの本質をしっかりと捉えているからのように思う。
この『ワールド・ウォーZ』の原作者もゾンビとは なんであるのかその意味をよく知っているのではないのだろうか。

ロメロのゾンビが最初なのかその後続のクリエイターが始めたのか定かではないが、民間信仰 に過ぎなかったゾンビが、「人間不信」という社会的記号を付与
されて二重の意味で現代社会によみがえったのである。

かようにゾンビ映画とは他者への恐怖を戯画化しつつ、思想の違う者は怪物として処罰される ことを潜在的に欲望している。

アメリカ人のゾンビ映画好きにはそういった歴史的背景もあるのではないのだろうか。

本作はロメロが撮った伝統的なマジックリアリズムから離れて病原体がゾンビを産み出すという現代社会で懸念されるパンデミック を想定して作られており、
極力ストーリーにリアリティを与えようとしているが、見せたいものはやはり醜悪な容姿のゾンビであり、そこは従 来からあるゾンビ映画の枠から抜け出して
いない。
つまりゾンビ映画ファンには安心して観られる体裁は整っているということだ。
どのように して観客をゾンビで驚かすのかのリサーチはされているようで、その演出は古典的ですらある。ラストは続編を匂わせる終わり方をしているの だが、あるとしたら次こそ世界戦争の様相を呈するのだろうか。

青森 学

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