◆想像を超える最低映画。見どころは一つもないとも言えるし、驚きの連続とも言える。なぜか見た後、幸せな気持ちになってしまった。(35点)
この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。
「見たら頭が痛くなる」「目がチカチカする」などとウワサを聞いていたが、幸いそのような症状は出なかった。しかし、唖然としてなぜか多幸感に襲われ、寝付きが悪くなってしまった。1953年製作のモノクロ映画で、監督はフィル・タッカー。音楽はエルマー・バーンスタインだが、勿論、「大脱走」などを作曲したあの人とは別人だ。本当に安いテイストで、ジャケットに「チープSF代表作」とあるが、まさにそんな感じだ。
昔、何の本か忘れたが、ゴリラの着ぐるみに潜水帽を被ったモンスターが女性を抱えている本作の写真を見て、その安っぽさに仰天し、「ああ、見たいなあ。でも見られないだろうなあ」と思ったものだった。なぜゴリラの体に潜水帽なのか? この女性はこの後、どうなるのだろう。想像は膨らむ。それが見られたのだからまずは感謝しなければならない。しかし実際は想像を超える映画だった。
父親のいないジョニー少年は洞窟で発掘作業をする考古学者の2人に憧れていた。ゴリラの体に潜水帽の宇宙人が恐竜を使って地球を突然攻撃する。生き残ったのは、ジョージ博士の一家と、その助手、宇宙ステーションへ移動しようとしていたわずかな人々だけだった。いつの間にかジョニーはジョージ教授の息子になっている。宇宙人は怪光線で宇宙ステーションも、そこへ向かおうとするロケットも破壊してしまう。ジョージ一家も殺そうとするが、一家はどんな病気にもかからない薬をすでに飲んでおり、怪光線にも平気だった。そこで、宇宙人は腕ずくで殺しにかかる。一方で、宇宙人は教授の娘アリスに惚れてしまい、娘を誘拐しようとする。
「ゴリラの体に潜水帽」は、結局、何の説明もなかった。また、DVDのジャケットには潜水帽の中に髑髏の顔が描かれていが、本編では銀色の覆面をしているだけ。開巻しばらくすると、突然、恐竜どうしが戦う場面が出てくる。とても同じ映画とは思えず、何の脈絡もないので呆然とするが、「宇宙人(ゴリラ+潜水帽)が恐竜を使って地球を滅ぼした」という意味らしい。それが、ただ別のフィルムが交じってしまったようにしか思えない。
父親がいないはずの少年に突然父親が出てきて、また「?」マーク。宇宙人は洞窟の周辺をウロウロするだけ。宇宙人の使うマシーン(ある種の交信機のようだ)の描写は、機械のまわりにシャボン玉をプクプクと飛ばし、それで宇宙っぽさを出すという信じられない演出。宇宙人がそれっとばかりに放つ必殺の光線に対し、少年の家族は「どんな病気にもならない薬を飲んだから大丈夫」という設定。そして、少年の家族の父親(科学者)の弟子と宇宙人で、少年のお姉ちゃんを取り合うという話に展開してゆく。
弟子とお姉ちゃんは地球が滅びそうだというのに、徒歩で新婚旅行に出かけ、宇宙人にやられる。ここが凄い。ホントに簡単に弟子はやられてしまうのでアッと驚かされる。宇宙人はお姉ちゃんに惚れてしまい、上司に殺せと命令されて「出来ない、でもやらねばならない」と悩む。ちょっといい場面。ロボット・モンスターという名前だがロボットではなく人間的なようだった。しかしこの宇宙人のあなどれないのは、お姉ちゃんは殺せないと悩むくせに、子供(女子)は簡単に殺してしまうこと。幼女に興味はないようだ。
そして驚愕のラストまで、見所は何一つないともいえるし、驚きの連続ともいえる。ラスト近くにまたヤケクソみたいに恐竜の闘いのフィルムが挿入されるが、もはや意味不明。映画としてどうこう語るような作品ではないが、とっても奇妙なものを見た、という感覚は確かに残る。そして、何故か見た後に幸せになってしまった。60分と短いので、たまにはこんな珍品もどうだろうか。
(小梶勝男)