◆ベルギーで大ヒットしたサスペンス。よく練られた脚本に巧みな語り口で十分に楽しめるエンタティンメント(72点)
珍しいベルギー映画。ベルギーでは国民の10人に1人が見たというほど大ヒットしたらしい。それも納得出来る。確かに面白かった。
家族に秘密の情事のため、ロフトルームを共有する5人の男。だがある日、その部屋で女の死体が発見される。傍らには、血のついたナイフとラテン語の血文字。一体誰が、なぜ殺したのか。善後策のため部屋に集まった5人は、お互いに不信感を募らせていく。
「キサラギ」や「悪夢のエレベーター」と同様、観客をミスリードし、どんでん返しであっと言わせるサスペンスなので、物語は詳しく書けない。なるべく予備知識がないまま見た方がいい。よく練られたストーリーは、ミスリードの仕方が実に巧妙で、物語が二転、三転しても、全く興味が途切れないのが見事だ。
ケーン・デ・ボーウ、フィリップ・ペーテルスら5人の男たちを演じる俳優たちも良かった。いかにもスターといった華のある俳優たちではないが、それがかえって物語にリアリティを与えている。それぞれ個性も、演技の実力もあって、本作にはピッタリのキャスティングだと思う。
監督のエリク・ヴァン・ローイは日本では馴染みがないが、様々な登場人物の心理を描く手腕はなかなかのもの。登場人物が多いと、最初は誰が誰なのか戸惑うものだが、語り口が巧みで、すぐに頭に入ってくる。
主人公の一人の建築家がパーティーを回想する場面がある。5人の男たちとその家族、周囲の人々と、非常に多くの人物が次々と登場するのだが、それぞれがお互いに持つ愛情や憎しみ、複雑な思惑を実にすっきりと、しかもスリリングに描いていて、その人間関係のドラマチックな展開は、ロバート・アルトマンの群像劇を思わせるものがあった。
もっとも、アルトマンのようなひねったユーモアはない。代わりに漂っているのはエロチシズムだ。出てくる女性たちは魅力的だが、現実離れした美人でないのが、かえってリアルさを感じさせる。セックス・シーンがそれほど激しいわけではない。エロチシズムを感じるのは、男女の裸の映像そのものより、欲望や嫉妬が生々しく描かれているからだろう。
この手の映画は観客を驚かせるために無理な展開になっていくという、「どんでん返しのためのどんでん返し」に陥りがちだが、そのような欠点もない。深い感動や映像美はないものの、サスペンスとしては非常によく出来ていると思う。
(小梶勝男)