◆ユニークな近未来の世界観と、粋な演出を楽しもう(75点)
人工臓器が爆発的に普及した近未来。高額の人工臓器をキャッシュで買える者はいいが、そうでない者は高利のローンを組まされる。支払いが滞ると、やって来るのが回収屋=レポゼッション・メン(レポメン)だ。車や宝飾品なら話は簡単だが、人工臓器はどのようにして“回収”するのか? 強力なティーザー(スタンガン)で相手を気絶させ、メスを使って摘出するのである。相手が死んでしまうって? そんなこと、レポメンの知ったことではない。
ユニオン社に雇われる非情なレポメンのレミー(ジュード・ロウ)は、ある仕事の最中に事故に遭い、自ら人工心臓を埋めた体になる。自分がそういう立場になると、ついつい回収の矛先が鈍って収入が激減。ついにはローンの支払いが滞り、親友のジェイク(フォレスト・ウィテカー)に追われる身に……。
舞台となった近未来の世界観がユニークだ。必ずしも医療用のものだけではなく、生活の利便性を高めたり、性的魅力を増したりするための人工臓器が販売されているらしい。たとえばレミーが心を奪われるクラブ歌手のベス(アリシー・ブラガ)は、高感度の人工耳に替えていて、そこにイヤホンをつないでレミーに遠方の音を聞かせたりする。ここでは書けないある「感度」を高めるために人工の生*器を移植しているという設定にはさすがに目が点になったが、考えてみれば現在の豊胸術や睫毛エクステが発展すれば、いずれそういう方向に向かうのかもしれない。
ミュージックビデオで経験を積んだミゲル・サポチニク監督は、エロティックなシーンを生臭く描かず、オシャレに暗示させるのがうまい。10個もの人工臓器を持つベスが、次々と人工の部分を数えあげたあと、レミーに「唇のことを聞いて」とささやくセリフの妙。セクシーなムードを盛り上げておいて、濡れ場に移る寸前に、ベスにロウソクを吹き消させる粋。終盤にはレミーとベスが人工臓器をスキャンしなければならなくなり、自らメスを入れた傷口にスキャナーを突っこむシーンもある。ベスが人工生*器を持っているという伏線を忘れない賢明なあなたには、壁の向こうから聞こえる彼女の苦悶のうめきが、ちょっと違った声に聞こえるかもしれない。
ロマンスの話が先になったが、本作はSFアクションや人間ドラマとしての魅力も水準以上。逃亡劇の緊迫感は、同じ近未来SFの傑作『ガタカ』(97)や『マイノリティ・リポート』(02)を彷彿とさせる。逆手に持ったナイフなどを操るロウのバトルアクションも鮮烈。マルコ・ベルトラミ(『ハート・ロッカー』)が担当したスコアや劇中曲の選択も、カッコいいったらありゃしない!
守るべき女と出会ったことで、1度は捨てた生への執着を取り戻すレミーの姿は、「人は何ゆえに生きるのか」という哲学的な命題を考えさせもする。レミーがユニオン社への反撃に打って出てからは、ストーリーのスピード感と破天荒さが2段階ほどシフトアップ。レミーの息子や、ベスやジェイクの意外な行動が、自然に観る者の胸を熱くする。実を言うと、原作者&脚本家のエリック・ガルシアは、そのすべてを引っ繰り返す驚愕の結末を用意しているのだが、詳しい話は明かさぬが華だろう。ここではただ、一言こう述べるにとどめる。観るべし!
(町田敦夫)