レスラー - 佐々木貴之

◆久々の男泣き映画(85点)

 80年代に大活躍したプロレスラーのランディ“ザ・ラム”ロビンソン(ミッキー・ローク)は、今となってはスーパーの惣菜コーナーのバイトで食い繋ぎながらも週末の小規模インディー団体の興行で試合をしている落ち目の中年レスラー。ある日、試合後に心臓発作で倒れたランディは、入院先の病院の医師から「現役続行は危険」と宣告される。娘に嫌われ、愛するストリッパーのキャシディ(マリサ・トメイ)にも振られてしまったランディは、再びリングに上がって闘うことを決意する。

 80年代のセクシー系イケメン俳優ミッキー・ロークが本作で完全復活を成し遂げた。もともとはニコラス・ケイジ主演の予定であったが、ダーレン・アロノフスキー監督がミッキー主演案を押しまくって登板を実現させた。そのために製作費は削減され、小規模公開となったものの54の映画賞を受賞し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされたりとミッキーの演技も高く評価され、大成功を収める結果となった。

 プロレス映画である本作は、随所に試合場面を散りばめて娯楽性だけを全面に押し出した単純作ではない。プロレスの試合を描きつつもランディという一人の落ちぶれたレスラーにスポットを当てた人間ドラマが売り物なのである。

 プロレス好きならとにかく試合シーンを楽しみたいに違いないだろう。本作で描かれる試合はキャメラが接近していることもあってTV中継以上の迫力が感じられ、面白く仕上がっている。中でもインディー団体ならではのハードコアデスマッチ戦はバイオレンス色が強く感じられ、痛々しさが存分に伝わってくるほど衝撃的な描写となっている。また、本物のレスラーも大挙出演しており、これまたプロレスファンを楽しませてくれる。

 特筆すべきポイントは、アメリカンプロレス好きならニヤリとしてしまうシーンだ。ロッカールームにてレスラーたちが試合の打ち合わせをしており、これに関してはWWEファンやここのドキュメンタリー映画『ビヨンド・ザ・マット』を観た方にとっては理解済みだと思うが、アメプロは予め用意されている筋書きによって試合が展開され、勝敗も決まっている。スポーツとしてのガチンコ勝負ではなく、ショー的要素を押し出したエンターテイメントスポーツとして理解されているため、“ヤラセ”や“八百長”と罵倒されることなく気楽に楽しまれている。そんな舞台裏をコミカルさを交えて描いている点は、実に面白い。

 もう一つの面白いポイントといえば、ランディのキャラクターぶりがミッキーとダブってしまうことだ。80年代は恵まれたが90年代以降は落ち目、月収約六万円、家賃を滞納しながらのトレーラーハウス暮らし、惣菜店バイトという共通点があるのだ。ランディの「80年代最高、90年代最悪」というセリフは、とにかくインパクト大だ。

 マリサ・トメイのストリッパーも注目度が高く、美熟女エロスを存分に堪能できる。だが、これが四十代という年齢を感じさせず、若々しく見えるのだから凄いとしか言いようがない。

 本作は、久々の男泣き映画だ。とにかくミッキー・ロークの今後の活躍を期待したい。

佐々木貴之

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