リングに上がる前は試合の流れを打ち合わせし、試合後はお互いのパフォーマンスを称えあう、プロレスの内幕がリアルに再現される。映画は虚構の中にしか居場所がない男の不器用な生き方を通じて、人生の悲哀をしみじみと描く。(80点)
リングに上がる前は試合の流れを入念に打ち合わせし、試合後の控室ではお互いのパフォーマンスを称えあう。前半、プロレスというショーの世界の内幕がリアルに再現される。映画は虚構の中にしか居場所がない男の不器用な生き方を通じて、人生の悲哀をしみじみと描く。栄光の時代は遠い過去になり、しがない毎日を送る主人公をミッキー・ロークが熱演。老眼鏡や補聴器を付け、忍び寄る衰えと戦いながらもトレーニングを続け、日焼けした肌や金黒まだらの髪といったヒーローの外見にこだわる。どんなに無様な格好をさらしてもプロレスしがみつく彼の姿が切ない。
かつて人気を誇ったレスラーのランディは、今も細々とプロレスを続けているが収入もわずか、トレーラーで一人暮らしをしている。ある日、試合後に心臓発作で倒れ、医師から激しい運動を禁止されリングを離れる。そのさみしさを紛らわせるために一人娘のステファニーを訪ねるが、冷たく突き放されてしまう。
ランディは観客の熱狂がこだまする試合会場以外は苦手。あらかじめ考えた筋書きにしたがって事が運ぶリング上とは違い、実際の人間は思い通りに動いてくれない。目の前に家族がいても目をそむけ、ついプロレスに逃げ込んでしまう。引退して初めてステファニーと仲直りするという難題に直面し、スーパーで働いてカネを稼ぐという現実に立ち向かう。肉体は鋼のように鍛え上げても心は繊細なまま、そんな男の哀愁が胸に沁み入る。
やがて一度和解したステファニーにも絶交され、気のあるストリッパーとの距離も縮まらないまま、ランディは現役復帰する。それは伝説のデスマッチといわれた20年前の再戦。胸の痛みを気にしながらもコーナーポストから宙を舞うランディは、希望に向かってジャンプしているのだ。その先に明るい展望はほとんどないことは分かっている、それでも「本当の自分」に戻れる場所はリングだけで、そこで死んでもかまわないという彼の心の叫びが聞こえてくるようだった。
(福本次郎)