◆バックマン家のホームビデオという感じ(75点)
バックマン家の次女キム(アン・ハサウェイ)が姉レイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式に出席するため、麻薬依存症の施設から退院し久々に実家に戻ってくるが、結婚式準備の良いムードをブチ壊すような存在となってしまう。そんな彼女は、かつて一家内に見舞われた悲しい過去を改めて抉り出して家族に向き合わさせようとしていた。
オスカー監督のジョナサン・デミが、デジタルカメラを駆使して長女レイチェルの結婚式当日までの三日間を近年挑戦しているドキュメンタリーの手法を取り入れてリアルに映し出し、バックマン家のホームビデオという感じで撮った。
タイトルから考えると、ローズマリー・デウィット扮するレイチェルが本作の主人公だと思えるが、あくまでも主人公はアン・ハサウェイ扮するキムだ。現在、もっとも良い活躍ぶりが目立つハサウェイがこれまでに演じたことのないキャラクターに挑戦し、役者として新境地を開拓した。そして、アカデミー賞の主演女優賞にもノミネートされたのである。
キムはドラッグ中毒でつねに煙草を吸いまくり、ついつい汚い言葉を発してブチギレしたりする。レイチェルの結婚のために集まってきた人々とのディナーの席では、ピリピリしているかのような表情を魅せる。これが緊迫感を醸し出し、観る者に気を掛ける。挙句の果てには、レイチェルと激しく口論し、実母アビー(デブラ・ウィンガー)にトラウマ的な過去の出来事の件で突っ掛かって顔面に一発喰らわされて喚き散らしたりする。このような描写から、バックマン家が崩壊していたこと、今となっても過去の傷が癒えずに家族間に不協和音を奏でていることが十分に伝わってくる。
家族の問題を描く一方でレイチェルの結婚を祝うパーティー描写がよく観られ、これが実に楽しさ一杯に描かれているのが好ましいポイントだ。大勢のミュージシャンが歌い、演奏し、ダンスする。劇中で描かれる家族問題の深刻さや殺伐さを大いに和らげ、観る者を安心させると同時にしっかりと楽しませてくれる。
(佐々木貴之)