◆メキシコを舞台に(55点)
ワールドカップ南ア大会も近いし、ここらでサッカー映画でも。──というわけで(もないだろうが)登場したのが『ルドandクルシ』。ノー天気な明るさに満ちたこのハートフルコメディは、しかしメキシコ映画界の誇る才能たちが本気で作った入魂の一本。
バナナ園で働く兄弟ベト(ディエゴ・ルナ)とタト(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、たまたま出会ったスカウトマンの目にとまり、プロサッカー選手としてデビューする。あれよあれよと人気も急上昇、暮らしもどんどん豊かになっていくが……。
この映画、新鋭カルロス・キュアロン監督を周りで支えるメンバーがすごい。実兄のアルフォンソ・キュアロン(「トゥモロー・ワールド」監督)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(「バベル」監督)、ギレルモ・デル・トロ(「パンズ・ラビリンス」監督)など早々たるメンバーが製作として名を連ねている。
主演の二人も、メキシコ映画というより、もはや世界的といっていいスターだ。それが本作では、股間をいじりながらテレビを見るといった、親密感あふれる演技をみせるのだからたまらない。ファンも大喜び、サービスのいい映画である。
とんとん拍子で進む前半から一転、後半は人生の酸味を味わうことになる兄弟だが、それでもさほどの悲壮感がないあたりが特徴的。そのうちなんとかなるだろうという、まさに植木等的価値観の体現である。いまの暗い顔をした不況日本人の皆さんに、もっとも足りないものでもある。
陽気でのんきで気が休まる。才能と情熱の方向が不幸にして違っていた兄弟の、それでも大好きなもので身を滅ぼす人生。ほろ苦いが、しかし時間は続き、過ぎてゆく。これをみれば、自身の人生をもう少し愛でてあげようという気になる……かもしれない。
(前田有一)