911が喪失ではなく再生のきっかけとなる、そんな映画はこの作品が初めてではないだろうか。(点数 60点)
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兄の自殺を発見した男とチンピラに母を殺された女。近親者の死を目
の前で体験したふたりは心の空白を埋めるかのように求めあうが、恋
の喜びに浸る一歩手前で、先に逝ってしまった人への遠慮なのか、気
持ちに一線を引いてしまっている。映画は、ふたりの出会いと別れ、
やり直しの過程で “いまを精いっぱい生きる” 大切さを描く。無駄
な命などひとつもない、無駄な行動などひとつもない。誰かを愛し、
他人の役に立つことで人生は意味を持つのだ。
【ネタバレ注意】
刹那的な生活を送るタイラーはルームメイトに唆され、以前自分を逮
捕した刑事の娘・アリーに声をかける。ふたりは急接近し、父と大喧
嘩したアリーはタイラーの部屋に転がり込んでくる。
タイラーは兄の死後も仕事一筋の父と折り合いく、アリーは母亡きあ
との濃密過ぎる父娘関係にウンザリしている。父との距離感をうまく
保てない若者たち、といってもふたりともティーンエージャーではな
く成人した大人、世代間の価値観の違いに反発はするがそれを乗り越
えていこうとする気概が希薄なのは、死をあまりにも身近に経験した
せいなのだ。
ふたりの物語は2001年5月のマンハッタンから始まるが、当然近い未来
に911が彼らとその家族の運命に深くかかわってくるのは予想される。
だが、911が喪失ではなく再生のきっかけとなる、そんな映画はこの作
品が初めてではないだろうか。
(福本次郎)