リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 - 映画批評なら映画ジャッジ!

◆何も信じられなくなった男の悲劇(70点)
リチャード・ニクソン暗殺を企てた男

 70年代におきたハイジャック事件をもとにした人間ドラマ。主演はアメリカを代表する演技派ショーン・ペン。

 一年前から別居中の妻子と再びやり直すため、主人公(S・ペン)は事務機器の営業マンという慣れない仕事に就いた。しかし、思うように成績をあげられぬ彼は、職場や上司、やがてはこの不公平な社会を作った国に対する不満を募らせていく。

 しかしそれでも主人公は最後まで必死に適応しようとし、親友との起業など、なんとか世間の不公平から逃れて、まっすぐに生きる道を模索する。そんな不器用きわまる彼が、徹底的に追い詰められ、テロ行為を決意するまでの様子をじっくりと描いたドラマだ。

 といっても、暗殺だのテロだのといった話はほんの少しで、ほとんどはこの、社会に適応できなかった哀れな男の姿を温かみある視点で描いている。

 製作総指揮のレオナルド・ディカプリオ、主演のショーン・ペン(彼はこの企画に6年間もかかわったという)といった面々はハリウッドでは有名なリベラリストであるから、この主人公も当然のこと魅力的、好意的に描かれる。あこぎな資本主義社会からの脱落者ではあるが、それでもこの男は極端な共産主義に走ることなく、あくまで現実社会の中で生きようとする。ショーン・ペンの熱演のおかげで、その姿には強く共感ができる。

 この物語は、「何も信じるものがなくなった男の悲劇」であり、主人公の暗殺者の姿はとてもせつない。自分の目的すら信じられなくなったこの男は、すでにテロリストですらない。なんと哀れで、しかし優しい男であろう。

 「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」は、そのタイトルとは裏腹に、いち労働者への優しさを感じられる左翼的な映画である。派手なアクションもなければあからさまなお涙頂戴もないが、一人の純粋な人間が落ちていく典型的な様子をじっくりと説得力を持って描いている点で、ドラマとしては十分合格点だ。世の中の底辺で苦労している庶民たちがこれをみたら、そのリアリティに驚くと同時に、強く共感することができるに違いない。

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