ラーメン侍 - 小梶勝男

ご当地映画のUターンものだが、渡辺大と山口紗弥加の熱演や、ラーメンというテーマの面白さで、Uターンものの水準を超えた秀作となった(点数 70点)


(C)「ラーメン侍」製作委員会

 ここ数年、「ご当地映画」と呼びたくなるような作品が増えている。
ある地域を舞台に、そこのフィルムコミッションが協力し、地元でエキストラを賄って作られる作品だ。
地域の歴史や特色がテーマとなり、ときにはスタッフやキャストも地域出身者や、地域と関連のある人々が集められる。
エキストラはたいていボランティア。
スタッフの一部がボランティアの場合さえある。

茨城県の市民団体が中心になって作った「桜田門外ノ変」や、市役所が製作し市の職員が監督した「五日市物語」、福岡出身者が集まった「信さん・炭坑町のセレナーデ」などが思い出される。
吉本興業が進める「地域発信型映画」などもこのジャンルに入るだろう。ほとんどの場合、地元でまず先行上映されたり、地元の映画祭で目玉作品として上映されたりして、しばらくしてから東京の映画館にかかる。

 この「ご当地映画」の中でも、「Uターンもの」と呼ぶにふさわしい映画群がある。
都会で暮らす主人公が、仕事に失敗したり、親が倒れたりして田舎に戻り、親の仕事を継いで成長していくパターンだ。
この場合、主人公の仕事はなぜかデザイナーなどカタカナ職業が多く、田舎で継ぐ仕事は飲食関係が多い。
バルーンアーティストが弘前に戻って食堂を継ぐ「津軽百年食堂」、服飾デザイナーが臼杵に戻り、祖父が作る有機栽培のお茶畑を継ぐ

「種まく旅人~みのり茶~」などが典型的だ。
Uターンものは、その土地独特の風景や名物、風俗に、親子関係や東京と地方の関係を盛り込まなければならないため、どうしてもストーリーが似たり寄ったりになってしまう。

「ラーメン侍」もまさに、ご当地映画のUターンものだ。
東京のデザイン会社で働く主人公(渡辺大)が、父(渡辺の二役)の死去で地元の久留米に戻り、ラーメン店を継ぐ。
母(山口紗弥加)から、父が屋台でラーメンを始めたころの話を聞いて、活気を失った久留米の街を復活させようと、ラーメン店を弟子に任せて新たに屋台で自分流のラーメンを始めようとする。

パターンは同じ。見る前から話はほぼ分かってしまう。
それでも、この映画は他のUターンものと比べ、見応えがあり、面白い。
理由の一つは、役者の力だろう。

大酒飲みで喧嘩っ早いが男気のある父と、一本気な性格を受け継いだ息子の二役を演じる渡辺大が、とてもいい。
渡辺大自身が、渡辺謙の息子で、二世俳優であり、役柄とどうしても重なってくる。
父役を演じる渡辺大は、まるで渡辺謙のように見えるときがある。
後姿で声だけ聞いていると、どちらか分からないほどだ。
役柄の父親を演じる役者が、まるで役者の本当の父親に見えるという、面白さ。
渡辺大自身が意識しているわけではないだろうが、この作品の場合、それが一つの見どころになっている。

また、18歳から58歳までを演じる母親役の山口紗弥加が非常にうまい。
どの年齢を演じても、あまり違和感がないのは演技力だろう。
役柄の年相応の動作がきちんと出来ていて、後姿でさえ年齢を感じさせるのは見事だった。
津川雅彦、西村雅彦、甲本雅裕らベテラン勢も、作品に「ご当地映画」にとどまらない重みを与えている。

主人公の父親が若かった昭和40年前後のエピソードは、やくざ同士のけんかの仲裁に入ったり、行くところのない若い女性を家に引き取ったりと、非常にベタだが、久留米の町と、スッと背筋の伸びた渡辺大の古風な男ぶりが、古い人情話にぴったりで、素直に楽しむことができた。
そして、なんといってもラーメンというテーマがいい。
「たんぽぽ」「ラーメンガール」に続く本格的なラーメン映画だが、ラーメンを作る渡辺の手つきが職人のように見事で感心した。
手際よくラーメンが作られる様子は、見ていて飽きない。
屋台街の雰囲気も味わいがあり、実に絵になっていた。

ラスト、主人公が新たに屋台を出すのを、役所が止めようとするところで、スパッと映画が終わるのも良かった。
久留米の町の再生へ向けて、結論を出さず、余韻を残したラストだった。
Uターンものの水準を超えた秀作だ。

小梶勝男

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