ラスト・ターゲット - 福本次郎

殺し屋の人生を選んだ人間の心を覆う虚無感と生存本能が静謐な映像の中で強烈にせめぎ合う、見事な緊張感を持つ作品だった。 (点数 60点)


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やすりをかけ、ドリルで穴をあけ、ねじ山を切る。丁寧な手仕事は、
もはやマイスターの域に達している。暗殺を生業としてきた男にとっ
て、死の恐怖と他人を信じられない孤独は常に付きまとう影法師、作
業に専念している間だけは心理的プレッシャーから解放されるのだろ
う。物語は命を狙われ潜伏中の殺し屋が、逃亡先の小さな町でつかの
間のやすらぎを覚え、運命の軛から逃れようともがく姿を描く。イタ
リア山間部の、時間から取り残されたような石造りの町の美しさが主
人公の悲しみを引き立てる。

3人の男女を始末したジャックはローマに逃げ、連絡係のパヴェルの指
示を受けるが、山間部の城塞都市に身を隠す。その間、女スナイパー
からの依頼で銃を製作する傍ら、地元の娼婦・クララに胸襟を開く。

情報は漏れていないはずなのに、ジャックの背後に追っ手の影がちら
つき始める。だが、映画はあくまで寡黙で説明は一切しない。どの人
物が裏切り者で、なぜジャックを殺そうとするのか、その答えを明確
にしないことで、ぬぐいきれない不安・かりそめの平安といったジャ
ックの感覚と感情を観客に同期させようとする。住人から「アメリカ
ン」と呼ばれる、よそ者が感じる居心地の悪さがリアルだ

一度手を血に染めた人間はどこまでも死神に追われ続ける、殺し屋の
人生を選んだ人間の心を覆う虚無感と生存本能が静謐な映像の中で強
烈にせめぎ合う、見事な緊張感を持つ作品だった。

福本次郎

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