ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ - 前田有一

◆時代にマッチしている上、脚本の骨格がきわめて頑健(90点)

 たぶんこの映画についてほとんどの方は、こんな風に考えているだろう。

 「え、日本映画? 安っぽそう」「え、フジテレビの映画? 軽そう」「え、テレビドラマの映画化? 映画だけ見てもわかんなそう」「とにかく、つまんなそう」

 その気持ちはわからぬでもないが、なんと本作に限ってはすべてよい意味で裏切られた。こういうことはめったにあるものではない。

 いよいよライアーゲーム決勝戦。手段を選ばず大金を奪い合うこのだましあいゲームも、いよいよ最後だ。ここまで残ったのは男女あわせてわずか11名。そのひとり神崎直(戸田恵梨香)は、騙すくらいなら騙されたいというバカ正直な女性だが、ここまで稀代の天才詐欺師・秋山深一(松田翔太)の圧倒的な才能に守られ生き延びてきた。だが今回のメンバーには、その秋山すら予想だにしない強力な刺客が紛れ込んでいた。

 「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」のストーリーはシンプルで、孤島の建物に呼び寄せられた男女11名が、「エデンの園ゲーム」なる戦いをひたすら続けるというもの。このゲームについては後に述べる。

 本作の魅力は、上映時間2時間強の間、観客をひきつけまくるテンポのよさ。これについては、テレビドラマの映画化というその素性が、おそらくはじめて有効な効果をあげた例ではないか。

 具体的にいうと、登場人物や舞台設定の説明が一切なく、いきなり対決に入るオープニング。これが抜群の緊張感を与えてくれる。テレビドラマのときに散々登場人物を掘り下げ、世界観の解説を繰り返してきたからこそ大胆に省けたのだろうが、結果的にそれが初見の観客に対しても功を奏した。

 もしここでグダグダと、いいわけじみた解説・説明から始まっていたら、さぞや興ざめしたことだろう。見知らぬ部屋で目覚めたとたん、選択の余地なく命がけの危機が訪れる「CUBE」や「SAW」ではないが、こういうゲーム映画は序盤が不条理なほど目が離せなくなる。

 次に優れた点としては、「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」の脚本は、もしそのタイトルが「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」でなくとも、まったく問題なく成立するほど普遍的な面白さを内包しているということ。

 この映画版のストーリーはドラマにも、漫画版にもない映画オリジナル。ドラマの映画版という企画だから人物名は受け継いでいるものの、ちょいと手を加えれば独立した一本の「非ライアーゲーム映画」へ容易に姿を変えられるほどの完成度だ。

 さらにいうなら、もし有名スターを起用すればそのままハリウッド映画として十分に一線で通用する。それどころか、正反対に超低予算で同じストーリーを描くことだって簡単にできるし(何しろ一部屋半ほどのセットがあれば十分だ)、その場合でも「面白さ」が損ねられることはまずない。本作の面白さは、役者にも映像にもまったく依存しない。こういう脚本が邦画界から出てくるケースは稀だ。

 すなわち「ライアーゲーム」だから、こんなにエキセントリックな登場人物が出てきて、セットもけれん味たっぷりになっているだけの話なのだ。だが本来、この脚本の骨格はえらく精密かつ頑強にできているから、味付けを変えればどうにでもなる。まじめなサスペンスにも、コメディにも自由自在に変貌する。あとは好みの問題だ。

 その脚本の芯となるのが「エデンの園ゲーム」。これは3種類のリンゴからそれぞれ1個ずつ投票し、全員の結果により持ち金が億単位で移動するシンプルなルールのゲーム。最初にシリーズのお決まりで、ナオがまず重大な発見をする。「これ、全員で協力すれば皆が少しずつ儲かる必勝法があるわ」

 だが事はそう単純ではない。たしかに全員が赤リンゴを投票すれば全員に賞金が出る。しかし一人でも裏切れば、裏切り者は大勝ち。赤リンゴ投票者は莫大な損失をこうむる仕組みだ。

 「皆を信じる」こんなに簡単なことがなぜできないのか。ナオは苦悩する。

 ここでいうライアーゲームはいわば私たちの現実世界を映す鏡。ここではナオのような人間は生きていけない。いささか極端な設定だが、これはある意味で真理を言い当てている。秋山のような庇護者がいなくては、純情な女性は生きていけないわけだ。男は女性の純粋性を守るために、ひとり社会にでて汚れ役を引き受ける。私はそう思っている。むろん、男女の立場が逆でもかまわないのだろうが……。

 だがこの物語は、そんなありえない理想主義者のナオの価値観をバカにはしない。むしろ、得がたい尊いものとして賛美する。そこが何よりいい。こうした主題はいまの時代、とりわけ強く心に響くものだ。

 いうまでもないが、マイケル・ムーアはじめアメリカ映画の名だたる作り手たちが、同じテーマを何度も何度も作品で訴えている。本作はそんわけで、昨今の米映画のトレンドとも完璧に合致する。

 世界中の人々は今、騙しあいの金融資本主義にウンザリし、その後に選ぶべき新たな経済システムを模索しているところ。そんな時代に日本からこうした映画が出てくる。なんと頼もしい事だろうか。

 エデンの園ゲームの熾烈などんでん返しの連続を考えるため、脚本家チームはさぞ頭をひねったことだろう。きっと何百回となくシミュレーションし、矛盾がないか確かめ、効果的に演出のデコレーションをしていったはずだ。

 そうした地道なブラッシュアップこそが、映画作りにおいて何より大切ということを、この作品は教えてくれる。「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」は、年間何本もお目にかかれない、日本の娯楽映画の傑作である。

前田有一

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