ミス・ポター - 福本次郎

◆絵の中の動物たちに語りかけ命を吹き込むと、動物たちは物語のキャラクターとなって動き出す。木々のざわめ、土と泥、湖水の清さと生き物の営み、それらを愛した絵本童話作者の姿を通して、環境を保護することの大切さを訴える。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 絵の中の動物たちに語りかけ命を吹き込むと、動物たちは物語のキャラクターとなって動き出す。時に作者の思い通りにならず、勝手に走りだし、危険に飛び込んだりする。その舞台はまだ手付かずの森や湖と手入れの行き届いた農場という緑と水の豊かな場所。人間と自然が共存することができた時代の面影を強く残している。木々のざわめきを聞き、土と泥に戯れ、湖水の清さと生き物の営みを観察する。それらを愛した絵本童話作者の姿を通して、開発の波から環境を保護することの大切さを訴える。

 ピーターラビットを出版社に売り込んだビアトリクスはノーマンという担当編集者を得て大ヒット作を連発、やがてふたりは恋に落ちる。しかし、身分違いの結婚は両親に反対され、ビアトリクスは少女時代を過ごした湖水地方に隔離される。

 子供時代にだけ与えられた好奇心と想像力、ビアトリクスは恋という夢を経験する代わりに自分の作り上げた世界に恋をしている。夫や家庭に束縛されない人生を選ぶことで若い感性を磨きをかけているかのよう。きちんと背筋を伸ばした姿勢のよさとはにかむような笑顔の反面、隠しきれないシワや背中の贅肉。心は少女時代のままだけれど体は衰え始めている、レニー・ゼルヴィガーは20世紀初頭のブルジョア階級の結婚適齢期を逃した独身女性の立居振舞を非常にリアルに演じ、映画はまだ女性が自由に恋愛できなかった当時の雰囲気をよく伝えている。

 ノーマンが急死し、ビアトリクスはその莫大な印税収入を自分の作品の原点である湖水地方の農園や土地を買い占めることに費やす。景観と生き物の住みか、農村の生活を開発業者に売り渡さない。それは自分の思い出だけでなく、未来への財産を守ること。いたずら好きの動物たちがつむぎだす小さな冒険と愛、そういった物語を生み出す土壌を失わせないことが、子孫に残すべきいちばんの財産であることをビアトリクスは教えてくれる。

福本次郎

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