マーターズ - 小梶勝男

◆凄まじい残酷描写。フレンチ・スプラッターの系譜に連なるがそれだけに収まらない孤高の問題作(80点)

 凄まじい作品だ。インパクトの強さだけで言えば、これまで見た作品の中でも、かなり上位に入るだろう。ホラーやフレンチ・スプラッターの系譜に連なってはいるが、単純な分類を許さない。孤高に位置する問題作だ。

 ストーリーは食肉処理工場に監禁・虐待される少女リュシーの逃亡から始まる。施設に収容され、同年代の少女アンナとともに過ごしたリュシーは、成長するとかつて自分を虐待した者たちに復讐するため、ある一家を訪れる。そこはごく普通の、平和そうな家庭。リュシーは猟銃で一家を虐殺し、アンナがその死体を処理する。そこに現れる、全身傷だらけの怪物のような女。どこまでが妄想で、どこまでが現実なのか。分からないままにすべてが血に染まっていく。

 「結末」に触れるといけないのでこれ以上は書けないが、とにかく描写が凄まじい。少女も含め、女性を監禁し、鎖で縛り、殴る、蹴る。頭にボルトを打ち込む。全身の皮を剥ぐ。全く容赦がない。皮膚が裂け、血が流れる描写も直接的だ。特殊メイクのブノワ・レタンの仕事が素晴らしい。余りにリアルに暴力的で、残酷なので、怒り出したり、気分が悪くなったりする人もいるだろう。

 だがその後には、驚くべき展開が待っている。ホラーを超えて、哲学的、宗教的な領域に踏み込んでいくのだ。

 ここで、フレンチ・スプラッターについて私見を述べておく。フレンチ・スプラッターとは、その萌芽的な作品はいろいろあるが、基本的にはアレクサンドル・アジャの「ハイテンション」から始まる、フランス製血まみれ映画のことだと思う。「P2」「屋敷女」「フロンティア」が日本で一般公開された。これらの映画には共通点があり、勝手に「フレンチ・スプラッター5要素」と呼んでいる。

 1.ユーモアゼロで暗くて陰惨

 2.どぎつい残酷描写

 3.主人公が女性で虐待され、血まみれになる

 4.異常心理がテーマの一つ

 5.(呆れるような)驚きの結末

 アジャ以降の作品は、ほぼこれらの要素を備えている。「マーターズ」には、この5要素が全てそろっているので、フレンチ・スプラッターのジャンルに入るのは間違いない。

 しかし、物語はそれだけでは収まらない。パスカル・ロジェ監督はこの作品をダリオ・アルジェントに捧げているが、アルジェントのような映像への耽溺や美学はそれほど見られない。部分的にはトーチャー(拷問)・ポルノのようだが、決してそうではない。読み解くためのヒントとしては、ジョルジュ・バタイユとカール・ドライヤーの「裁かるゝジャンヌ」(1928年)が提示されている。「証人」「殉教者」という「マーターズ」の意味もカギだ。個人的には、鷲田清一氏の著作「モードの迷宮」のSMファッションに対する考察に、「マーターズ」の主題と通じるものを感じた。SMが「わたし」という境界を様々に揺さぶるという論考だが、「マーターズ」の虐待もまた、「わたし」を超えるためにある。

 衝撃的なラストは、もはやバカバカしさにもつながり、ある意味、「トンデモ映画」と言えるかも知れない。楽しい気分になりたい時に見る映画ではないが、少しでも興味を持たれたら、映画館に足を運ぶ価値はあると思う。

小梶勝男

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