◆少女のようにベッドの上を飛び跳ね、パワフルに踊りだしたかと思うと、桟橋から海に飛び込む。もはや60歳近い年齢のメリル・ストリープのテンションの高さが異様なまでにこの作品を盛り上げ、すっかり主役の座を奪ってしまった。(50点)
幼い少女のようにベッドの上を飛び跳ね、若者のようにパワフルに踊りだしたかと思うと、桟橋から海に飛び込む。もはや60歳近い年齢になったメリル・ストリープのテンションの高さが異様なまでにこの作品を盛り上げている。さらに昔の恋人からプロポーズされたかと思うと、最後にはロックンローラーのようなステージ衣装に身を包んでABBAのナンバーを熱唱する暴走ぶり。本来、結婚を控えた20歳のヒロインがまだ見ぬ父親への憧れを描こうとしていたはずなのに、すっかり主役の座を奪ってしまった。
母親に女手ひとつで育てられたソフィーは、自分の結婚式にまだ見ぬ父親を呼ぼうとする。候補者はビル、ハリー、サムの3人、招待状を受け取った彼らは、ソフィーの母・ドナの経営するホテルにやってくる。
恋するときめきや若さゆえの挫折、未来への夢や希望、そんな人生の輝きを歌ったABBAのナンバーをストーリーのシチュエーションに沿って登場人物が口ずさむ。それはドナたちがまだ若さに満ち溢れていた時代のシンボル。ゆえに、ヒロインがいつの間にかソフィーからドナに変わっているのもうなずける。その昔、ドナはほとんど同時期にビル、ハリー、サムの3人と付き合っていたために、誰がソフィーの本当の父親かは当のドナも分らない。結局、3人とも3分の1だけの父親ということで納得する。このあたり、3人それぞれの勘違いや思い上がりをコミカルに見せてもよいと思うが、なぜかマジメなアプローチ。メリル・ストリープだけが強烈なインパクトを残す結果となっている。
こうしたミュージカルに物語の精緻な構成を望むのはヤボで、見る者はただなつかしい音楽に身をゆだねて自分の青春に思いをはせるのが正しい鑑賞の仕方なのは理解できる。ならば、なぜドナが一度に3人の男を愛することができ、その後3人とも接触を断ってしまったのか、そのあたりの彼女の悲しい愛の顛末や秘密も描けばもっと奥行きのある展開になっただろう。。。
(福本次郎)