◆伝記的社会派人間ドラマ(70点)
既に政界を引退しているネルソン・マンデラ元南アフリカ共和国大統領が、初めて映画化を許可した自身の伝記的社会派人間ドラマ。
舞台は、アパルトヘイト(人種隔離政策)が真っ只中の1968年の南アフリカ。黒人差別主義者の白人看守ジェームズ(ジョセフ・ファインズ)は、反政府運動のリーダーであるマンデラ(デニス・へイスバート)の看守担当になる。ジェームズは、マンデラに接する度にその人柄を理解し、好意を抱くのだが……。
ジェームズがマンデラの看守になったのは、ジェームズが彼らの母国語であるコーサ語を理解していることが原因だった。ジェームズは、少年時代に一人の黒人少年と仲良く遊んでいた。この経験があったからこそコーサ語が理解できたのである。それと同時に黒人差別意識が殆どないのである。アパルトヘイトという理不尽な体制によって、仕方なく黒人差別主義者となっているだけである。劇中では少年時代の思い出の一つである黒人少年との棒術遊びのシーンがフラッシュバックで描かれている。中盤以降では、ジェームズとマンデラが棒術対決をするシーンが観られる。これを観る限り、黒人と白人が仲良く過ごす人種平等社会を象徴しているかのように思える。また、マンデラが解放されるシーンでジェームズが少年時代に黒人少年から頂いたお守りを手渡すシーンが観られる。このシーンを観て考えられることは、ジェームズにとってのマンデラは、楽しかった少年時代の思い出を甦らせてくれる存在でもあったということである。平等と友情をほのかに感じさせる印象深いシーンだ。
本作でもう一つの印象深いシーンと言えば、ジェームズがマンデラの理想的な社会の実現という考えに共感を抱き、閲覧禁止の自由憲章を読むシーンだ。閲覧するために図書館職員と少々ややこしいやりとりをし、人にバレないようにこっそりと読むジェームズの姿を観ていると、こちら側もジェームズに感情移入し、ハラハラドキドキしてしまう。
本作は、マンデラ大統領をメインに描いたドラマだと思えるが、あくまでもメインは彼の看守ジェームズである。ジェームズという一人の男を通してマンデラの27年間に及ぶ獄中生活の一部と解放されるまでをドラマとして描いている。この手の作品は、上映時間が2時間を越えてしまうようなことが多いが、ダラダラとした冗漫な描き方をせずに2時間以内にまとめている点が非常に良くてしかも観易い作りとなっている。
ネルソン・マンデラの人柄や偉大さをもっと知りたい方や人種問題を理解したい方は、本作を観て勉強されることをオススメしたい。
(佐々木貴之)