正統派のドキュメンタリー(70点)
20世紀最高の歌姫マリア・カラスを映画化したものは、どうしてもゴシップ中心になるが、これはオペラ歌手であることにしっかり焦点をあてた正統派のドキュメンタリーだ。何よりカラス本人の生の言葉や歌声、映像が中心になっている点が良い。ギリシャ系米国人だったカラスは、生涯、家族愛に恵まれない。これが彼女の人生観や恋愛遍歴に影響したのは明白。一方で、歌への姿勢が真摯で、少女時代の努力の積み重ねに言及した部分では、天才というだけなく人一倍努力家だったことが分かる。ヴィスコンティ、パゾリーニなど、映画界の名匠たちも多く登場、演技面でも秀で、妥協しなかった。大げさな賞賛や華麗な生涯を強調することなく、カラスの長所も短所も平等に紹介し、才能と努力を浮かび上がらせた。優れた芸術家のドキュメンタリーはこうあるべきだと思う。
(渡まち子)