現代のプロ野球界がいかにマネタリズムに蝕まれているかがよくわかる作品だった。(点数 60点)
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ファンのノスタルジアを刺激する野球の魅力とは一線を画し、過去の
データだけを頼りに選手起用を決断する主人公。少ない予算で才能の
ある選手を集め結果を導こうとする手法は、チームを強くする情熱に
はあふれていても、野球に対する愛情は感じられない。それは若き日
に大志を抱いてプロ入りしたにもかかわらず選手としては大成しなか
った者だから到達できた、“ビジネス”の感覚から生まれたものだ。
【ネタバレ注意】
アスレチックスのGM・ビリーは統計の専門家・ピーターをスタッフに
加えてチームの再建を図る。死四球を含めた出塁率で選手の能力を測
り、他球団から安い年俸で引き抜いた選手を積極的に試合に出す。
バント・盗塁はダメではスピードが失われる上、守備軽視は緻密さに
欠けるし、チームワークという概念を無視した方法論は点は入っても
プレー水準を引き下げるもの。もはやベースボールは選手やファンの
ものではなく、カネ儲けの手段すなわちマネーボールに堕ちてしまう。
野球経験もなくでっぷりと太ったメガネの数式おたく・ピーターこそ
その象徴、選手は商品でしかなく成績とギャラで価値が決められる。
こんな野球、張本勲が見たら絶対に「喝!」と言うはずだ。
「夢」が動機の成功譚は胸を打つが「カネ」が動機では共感は呼ばな
い。それをわかったうえであえて感動的なシーンを省いた演出が非常
にクールで、端正な映像とマッチしていた。現代のプロ野球界がいか
にマネタリズムに蝕まれているかがよくわかる作品だった。
(福本次郎)