◆トニー・ジャーという稀代のアクション俳優の超人的な身体能力の限界に挑戦することに最優先し、エピソードは付け足しに過ぎない。命がけの格闘シーンの連続に“ものすごい映像を見た”という満足感を得られるのは間違いない。(70点)
剣道、カンフー、ムエタイ、総合格闘技、そしてナイフを使ったゲリラ戦術まで、あらゆる武術において達人の域に達した主人公の肉体的パフォーマンスには圧倒される。さらに群れをなす象の背中を自在に走り回り、心をつかんでしまうなど動物ですらひれ伏せさせてしまう精神面での充実も描かれる。映画は、トニー・ジャーという稀代のアクション俳優の超人的な身体能力の限界に挑戦することに最優先し、エピソードは付け足しに過ぎない。それでもCGに頼らない命がけのシーンの連続に “ものすごい映像を見た” という満足感を得られるのは間違いない。
両親を暗殺されたティンは山賊に救われる。彼らのもとで数年にも及ぶ武術修行を終えたティンは頭目に推挙される。そんな中、両親の仇討を許されたティンは、今や領主となっている裏切り者の宮殿に乗りこんでいく。
一応、ティンの回想や師匠の老人などとの絡みを交え、ドラマ部分で小休止も取っているが、やはり彼が動き回っていないと映画はつまらない。その後もティンは、鍛え上げられた力と技で襲い掛かる敵兵をなぎ倒すだけでなく、激しいドラムに乗せたタイの古典舞踊のようなものまで披露し、ポテンシャルの高さを証明するだけでなく観客の目を楽しませるのを忘れない。
だが、なんといっても最大の見せ場は山肌に築かれた砦での大格闘劇。またしてもティン 1人で数十人の刺客を相手にするが、そこに登場するのも剣客から忍者、カンフーと武術家のオンパレード。対するティンも剣術、棒術のほかにも三節棍まで使いこなす。その上、山の斜面にしつらえられた小屋の階段やはしごを使って空間を立体的に使うなどアイデアもたっぷりだ。極めつけは1頭の象の背中から足の間、牙まで利用する格闘。そこには 「誰も見たことのないアクション」を目指す作り手の熱意がほとばしっていた。かつてジャッキー・チェンが目指した体を張った香港製活劇映画の魂が、トニー・ジャーとこの作品に携わったキャスト・スタッフに確実に受け継がれている。
(福本次郎)