マチェーテ - 岡本太陽

◆ロバート・ロドリゲス監督による今まさにタイムリーな映画(75点)

 2007年にクエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスが監督した、70年代のB級映画を色濃く反映した映画『グラインドハウス』。その中に実際には存在しない映画の予告編がいくつかあったが、中でもとりわけぶっ飛んでいた事で話題をさらったのはロドリゲス氏が監督した予告編『マチェーテ(原題:MACHETE)』。その人気の高さからDVDスルーの映画として制作する企画があったが、なんとロドリゲス氏は長年彼の作品の編集等に携わったイーサン・マニキスと共同監督で、ファンのためと謳い同名の劇場用長編映画にしてしまったのである。

 ジョーク満載で遊び心溢れるメクスプロイテーション(アメリカに住むメキシコ系移民のためのエクスプロイテーション)映画として制作された本作は、元々『デスペラード』からロドリゲス作品で度々登場し、『スパイキッズ』シリーズでお馴染みの66歳の俳優ダニー・トレホのために1993年に書き下ろされた。見るからに悪人顔で、長髪を振り乱し、中南米で使われている伐採用のなたのマチェーテ(彼の名前も)を武器に格闘するトレホ氏扮する主人公の姿は痛快だ。

 物語の冒頭で、メキシコとアメリカ両国の政治家を取り込む麻薬王トレス(スティーヴン・セガール)に裏切りに遭った後、逃れて来た主人公マチェーテをテキサスに見つける。彼は普段金を稼ぐ為に庭師の仕事を探しているが、ある日ストリートファイトに参加する。その時、いとも簡単に相手を打ち負かすマチェーテの姿を見ていた街のビジネスマンのブース(ジェフ・フェイヒー)は大金と引き換えに、彼に不法滞在しているメキシコからの移民達を国外退去させている悪徳上院議員マクラフリン(ロバート・デ・ニーロ)の暗殺を依頼する。

 ところがその暗殺計画は、不法移民の敵を消し去るどころか、逆に不法移民批判を煽ってしまうよう仕向けられた罠だった。狙撃に遭い負傷するマチェーテは、とある病院で手当を受ける。しかしそこにもブースに送られた追っ手が。病院内で彼らと攻防を繰り広げるマチェーテ。そして追っ手の1人の体を切り裂き、出てきた腸を掴んで窓の外にジャンプ!実はメキシコ政府のために働いていたマチェーテ。プロフェッショナルでかつ型破りな彼は伝説として後世に伝えられてもおかしくない衝撃的な映像を生む。

 マチェーテのサイドキックとして登場するのは『アバター』で強い印象を残したミシェル・ロドリゲス扮するルズ。トラックでタコスを売る彼女は、メキシコ系移民達を手助けしており、マチェーテとも親交を深めていく。また、彼女の天敵として登場するのがジェシカ・アルバ扮する移民局員サルタナ。マチェートと出会い、彼の魅力に負け、この冷血そうなアメリカ人の女性の心境は変化していく。不思議とマチェーテにかかれば女はイチコロなのがまた笑わせてくれる。

 それからブースの娘エイプリルに扮するのはリンジー・ローハン。『チャプター27』以来となる映画出演の彼女は本作で頭空っぽの淫乱お嬢様を熱演。ここのところ下火になっていた彼女なだけに、マチェーテと母親役との3Pシーンやクライマックスで修道女姿にマシンガンを手にするバカバカしい画はこれからの起爆剤となるのだろうか。女性陣の華々しい活躍も本作の大いなる注目点である。

 嘘臭いスマイルがまるでブッシュ大統領を思い起こさせる不法移民を激しく批判する演説を展開するマクラフリンと共に、薄汚い心を持つアメリカ人として登場するのはドン・ジョンソン扮する国境警備員のヴォン・ジョンソン。彼は手下を引き連れ、国境付近を巡回し、国境を越えて入って来るメキシコ人達を誰彼構わず銃で撃ち殺す。

 2010年4月末、米アリゾナ州では新しい移民法が成立した。これは不法移民を摘発するもので、メキシコと繋がっているアリゾナ州では不法移民の州人口に締める割合は全米で最も高く、また不景気の影響等が移民法を作る引金になったという。本作で扱われている題材は、自ずとアリゾナの移民法を思い出させる。そのため、本作はかなりタイムリーな作品となったのだが、もちろんアメリカに対するメッセージも含まれてはいるが、世間を騒がす作品というよりは皮肉的な笑いを散りばめたエンターテイメント性の高い作品と言える。

 本作には「We didn’t cross the border, they crossed us(わたしたちは国境を越えていない、アメリカが越えて来たのだ)」とサルダナが叫ぶシーンがある。そう、テキサスもアリゾナもかつてはメキシコの一部だった。だからそんな地域でメキシコ人をまるで害虫の様な視線で見つめるというのはちょっと納得し難い話なのだ。

 アメリカではタダの不法移民の1人だったマチェーテ。しかし、彼の持つカリスマ性は徐々に周りに影響を与え、彼は次第に他の不法移民達を導くようになる。そして彼らは権力に立ち向かう。実はこんな日がアメリカに訪れるのもそんなに遠くはないのかもしれない。

岡本太陽

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