マシニスト - 樺沢 紫苑

頑固な不眠症の映画といえば (点数 90点)


(C)CASTELAO PRODUCTIONS,S.L.2004

あなたは、主人公が「不眠症」の映画といえば、
何を思い出しますか? 

ベタなところではクリストファー・ノーラン監督の
『インソムニア』でしょうか。
「インソムニア」とは、ずばり「不眠症」という意味です。

クリストファー・ノーラン監督といえばバットマン・シリーズですが、
バットマン・シリーズのクリスチャン・ベールの主演作である『マシニスト』、
これを私はマイベスト「不眠症」映画として選出したいと思います。

これは映像的にも不思議な空気感を持った作品で、展開の複雑さ、
難解さ、ラストの意外性など、『メメント』や『ソウ』に通じる
ものがあります。

機械工のトレバーは不眠症に悩まされます。
そして、トレバーの周囲では、不可解な出来事が次々と起こりはじめ、
謎の男にも追跡されます。

自分は何者かに狙われているのか? 
何か、大きな陰謀に巻き込まれたのか? 
トレバーの猜疑心は高まるばかりです。

トレバーは精神に異常をきたしたのか?
それとも、全ては現実なのか?

まず、このトレバーの心理描写が良くできています。
異常心理をリアルに克明に描いている。
『ブラック・スワン』の男性版のようなニュアンスです。

ラストシーンは、ある意味ドンデン返し。
十分な意外性がありながら、彼の異常心理の描写が、
その伏線となっているため、納得させられるはずです。

また、30キロ減量したというクリスチャン・ベイルの
痩せこけた姿が、不眠症の男という設定に、
圧倒的なリアリティを与えています。

全体の構成がかなり複雑で、回想が突然入ったり、
しっかりと見ていないと、時系列が混乱してきます。

これは監督の意図的な描写で、トレバーの混乱や苦悩を
そうした乱れた回想で表現しているのでしょう。

『メメント』『ソウ』と似た雰囲気もあって、
複雑、難解、ドンデン返し系の映画に分類されるようですが、
私は本格的な「異常心理」を見事に描いた作品として、
『ブラック・スワン』の系列に分類したい。

最後に、精神医学的な解説を少し。

この映画では、トレバーは「不眠症」にはじまり、
「妄想」にとらわれるわけですが、
「不眠」はいろいろな精神疾患の「入り口」に
当たる可能性があります。

「うつ病」「妄想性障害」「統合失調症」「アルコール依存症」
「PTSD」など、高い確率で「不眠」という症状を合併し、
病気が重篤化するかなり前の病初期から
「不眠」が現れることが多のです。

つまり、最初の「不眠」の段階で、ストレスの原因を減らしたり、
仕事の問題や家族の問題を調整すれば、
重たいメンタル疾患に陥らずにすむということ。

あるいは、「なかなか治らない不眠」を相談するために
専門医を訪れれば、重たいメンタル疾患に移行する前に
治療することも可能な場合もあります。

いずれにせよ「眠れない」という症状は、大きな病気の「入口」であり、
「前兆」である可能性があります。

放置しないということ。
「眠れない」が軽症であるからこそ、軽いうちに治さないといけないのです。

樺沢 紫苑

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