マイ・ブラザー - 福本次郎

マイ・ブラザー

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◆懊悩が深く静かに確実に胸の奥に巣食っていく姿を、トビー・マグワイヤは、大きく見開いた目で演じる。その上で頬がこけ指輪が回るくらいやつれた肉体をさらすという外見的な変化を見せ、言葉にできない苦悩を饒舌に表現する。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 戦場での過酷な経験が帰還兵の精神を蝕んでいく。生きて妻子のもとに帰れた喜びよりも、自らの手を血で染めた記憶が重く彼の心にのしかかる。“国に命を捧げた英雄”が決して言えない秘密を抱え、懊悩が深く静かにかつ確実に胸の奥に巣食っていく姿を、トビー・マグワイヤは、大きく見開いた目で演じる。その上で主人公のトラウマを、げっそりと頬がこけ指輪が回るくらいまでやつれた肉体をさらすという実際に身を削った外見的な変化で見せ、言葉にできない苦悩を饒舌に表現する。

 アフガン戦線でサムは移送中に撃墜され、妻・グレースのもとには戦死の知らせが入り葬儀も行われる。悲しみにくれるグレースを慰めたのはサムの弟トミーだった。そんな時、サムが救出されるが、明るかった性格がすっかり変っていた。

 トミーは前科者なのに対し、サムは対照的なエリート人生を歩み美しい妻と可愛い娘に恵まれている。彼らの父親にとってサムは自慢の息子でトミーは不肖の息子。ところが、出征前はサムが家族の中心だったのが、その後はトミーが家族を支える役目を担う。トミーを邪魔者にしていたグレースや娘、さらに父まで、キッチンのリフォームでトミーをファミリーの一員として認めていく過程が、皮肉なことにサム抜きの「家族の再生」として描かれる。つまり、サムの死の哀しみを乗り越えそれなりに笑顔が戻ってきたのに、抜け殻のようになったサムが家族に逆に不幸をもたらす構図が痛烈な戦争批判になっていて、戦争を「悪いやつらをやっつける」という意識でいるサムの娘に対し「悪いやつらってだれ」とトミーが問うシーンが、米国でも軍人と軍関係者以外の一般人は殺し合いに倦んでいる事実を如実に物語っていた。

 サムはトミーとグレースの関係を疑い始め、疑念がついに爆発してしまう。地獄の苦しみを味わっている間に妻は弟とできていたのではという怒りが沸点に達するのだが、残された者の苦しみを彼は理解できない。愛し合っていたはずの家族が信じられなくなる、それでもサムは抑え込んでいた真実をグレースに告白して救いを求める。戦争がもたらす黒い影といった題材にいまさら新鮮味はない。いや新鮮味がないことで、この作品はいまだ戦争の悲劇が繰り返されている愚かさを改めて告発しようとしているのだ。

福本次郎

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