マイレージ、マイライフ - 岡本太陽

◆ジョージ・クルーニーが敏腕リストラ請負人に扮する問題作!(70点)

 ジョージ・クルーニー扮する映画『マイレージ、マイライフ(原題:UP IN THE AIR)』の主人公ライアン・ビンガムはリストラ請負人。企業に雇われ人のクビを切りまくる彼の仕事は不景気の今最盛期を迎えている。酒もあるし、食事もある雲に囲まれた飛行機の中が、アメリカ各地を飛び回る彼にとってはまるでホーム。そんな生活が快適過ぎて、地に足を付けず、ずっと1人で気ままに生きてきたビンガム。しかし、彼は予期せぬ問題に直面する。それは今まで避けてきた、人との「つながり」を持つと言う事。

 会社の上司達が従業員をクビにする事を恐れてビンガムらリストラ請負人達は忙しく今日も空を飛び回っている。場所から場所へと移動する日常の一秒一秒に喜びを覚えるビンガムだが、その生活にも危機が訪れる。なぜならビンガムと同じくアメリカ中を飛び回るアレックス・ゴラン(ヴェラ・ファーミガ)と「我々の時代がやって来た!」と勢いづく会社のオーナー、クレイグ・グレゴリー(ジェイソン・ベイトマン)が雇った新入社員ナタリー・キーナー(アナ・ケンドリック)という女性2人に出会ってしまったから。彼女達によってビンガムの快適な現状が徐々に変化してゆく事となる…。

 ビンガムはアトランタにアパートを持つが、そこには生活の香りが全く漂っていない。というのも彼は年間にして出張に322日出ており、彼の生活用品は全てスーツケースの中に入っているからだ。また彼は、時にリレーションシップ・フリーライフの演説を行い、しがらみのない生活の素晴らしさを唱える。特定の恋人も持たず、家族とも疎遠のビンガム。マイレージを1000万マイル貯める目標だけが生きるモチベーションとなっている。

 そんなビンガムも、物腰が軽く、知的でセクシーなキャリアウーマンのアレックスには同じ穴のムジナの様な特別な何かを感じる。シングルライフを謳歌しているビンガム。ところが彼にアレックスは何も要求せず、ただ包み込む。その余裕のある包容力にビンガムは心地良さを覚える。アレックスに扮するヴェラ・ファーミガは『ディパーテッド』『エスター』等で、近年活躍が目立つ柔らかな雰囲気を持つ美人女優。彼女の魅力は本作で最も開花し、それは彼女の出演するシーンが毎回待ち遠しく感じられる程だ。

 ビンガムに解雇を宣告される役にJ・K・シモンズやザック・ガリフィアナキス等が扮しているが、彼らに対するビンガムの態度は意外にも冷静で優しく、彼らに同調し、笑顔で彼らの未来を考えた語り口で相手を納得させる。それはもちろん本心ではなく、仕事を遂行する上でのテクニック。彼は解雇される従業員の肩の凝りをほぐすという、自らの職業に誇りすら抱いているのだ。

 ビンガムは映画の中でこう言う、「俺の事を知りたければ、俺と一緒に飛行機に乗れ」と。そんなビンガムのアシスタントとして、彼の仕事に同行するのがナタリー。まさにネット社会を風刺する様な、ネットを介してのリストラを提案する彼女。新米らしくポニーテイルで勢いだけは十二分にあるが、世間知らずな彼女はやはり現実に打ちのめされる。クビ切りの仕事の辛辣さ、そのノウハウをネットではなく、直接人と向き合いながら学んでゆく。はじめは機械的な彼女のキャラクターも、時間の経過に伴い、徐々に人間らしさが見えてゆく。そのナタリーを演じる『トワイライト・サーガ』のアナ・ケンドリックは繊細な若い女性を熱演し、本年度のアカデミー助演女優賞候補の呼び声が高まっている。

 『サンキュー・スモーキング』『JUNO/ジュノ』で新進気鋭の映画監督としてその名を知られる事になったジェイソン・ライトマン。ウォルター・カーンの同名小説を基にシェルドン・ターナーと共同脚色を手掛けた本作では特に、物語の実験的さを押し出しており、何にも属さず所有しないと決めた人間がどの様な人生を送るか、観察出来るようなものになっているのだ。またそれに加え、あのスマートで軽快な台詞も健在で、ライトマン節を堪能出来る。

 ビンガムは妹ジュリー(メラニー・リンスキー)の結婚式のために、アレックスを連れて地元に赴く。シングルではいたいが、そこで一層距離を縮める2人。ところが、結婚式当日に花婿ジム(ダニー・マクブライド)が結婚に怖じ気づいてしまうという大事件が発生する。ジムの元に説得しに遣わされるビンガムだが、結婚してしまったらどんな未来が待っている、という想いをジムに打ち明けられると、ビンガムの顔の表情が変わり生唾を飲む。それはビンガム自身の恐怖でもあったのだ。またそれはなぜ彼が人と繋がりを持ちたがらないのかようやく分かる瞬間。彼は地に足が付いてしまう自分が怖いのだ。

 年間35万マイルも仕事でアメリカ中を飛び回り、スーツケースの荷物も少ない身軽でカッコいい男ビンガム。しかし、彼は人と会社とのつながりを断ち切る事は得意だが、人との繋がりを持つ事に怯える脆い心を持つ男でもある。そんな男だからこそ物語の中に登場する様な素敵な女性がきっと必要なのだろう。それにしてもリストラをスムーズに行う為に企業がリストラ請負人を雇うというシステムって、そして彼らが人々に対して心にも無い事を言ってクビを納得させる世の中って、なんだか悲しい。

岡本太陽

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