科学と魔法が混在した神話の世界が再び光臨(点数 80点)
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ロキは北欧神話でもトリックスターとして位置付けられており今作でも敵と味方の間を自在に行き来している。ロキの存在が重要であるからこそ『マイティ・ソー』が北欧神話の継承者として受肉するのである。
ただし勿体ないのが、オーディンの右目が失明しているのは過去の戦争での負傷とされている描写が前作ではあるけれど神話では大いなる知恵を得るための代償として右目を差し出したとされている。
とても深い意味を持つエピソードなので省略してほしくなかったのだが枝葉末節はこだわらないというアメリカンな発想だろうか。だが、オーディンを主役にしたスピンオフを作ると時にはネックになるとは思う。
魔法と科学が融合しているアスガルドの世界観が良い。
今回の敵役であるダークエルフも科学の粋を集めた宇宙船に乗ると思えば、魔術めいたアイテムで兵士をバーサーカー(狂戦士)に変えてしまうとか、魔法と科学の境界がつかない不思議な世界観が前作と同様に継承されている。
個人的な好みの違いなのだが、マーベル作品に充満する科学考証がエキセントリックでついていけない。とくに地球の場面で物理学者が、重力が均一に作用しない場所をイギリスで発見するのだが、その現象のほとんどがまるで魔法か奇術である。
いつもそれで鼻白んでしまうのだが、よく考えてみると現実でも既に魔法と科学の区別がつかない世界に足を踏み入れているのではないのかとの思いに至った。
例えば今や手放せなくなったスマートフォンだが、このタッチスクリーンの理論を知っていて使っている人はどれくらい居るのだろうか?ブラウン管ならまだしも今や日常に溢れている液晶テレビもその仕組みを知らずに使っている私からすると学習雑誌の付録で鉱石ラジオを作った世代くらいなので、どんな機械であろうと漠然とであれ仕組みが解ったつもりにならないと不安になるのだが、現代では多くのガジェットがブラックボックス化しているので傍目から見れば先端の科学は魔法と区別がつかないのである。
若い世代はそんな時代の気風をいち早く感じ取っているので、この『マイティ・ソー』のような世界観が抵抗なく受け入れられるようだ。『マイティ・ソー』は新しい感性を持った若い世代にこそ共感できる作品といえそうだ。
ソーが持つ武器”ミョルニル”も本当は科学の粋を凝らしたものなのだろうが、その内部にびっしり詰まった電子回路を見せる無粋な描写などはない。
アスガルドの世界はそのまま現代の科学と魔法の境界を見失った人の心象風景なのである。
(青森 学)