◆イエス・キリストの寓意を潜めた宗教色のある作品(70点)
『木靴の樹』(78)で知られるエルマンノ・オルミ監督が劇映画最後の作品としてメガホンをとった作品。
イタリアのボローニャ大学。夏期休暇中で人気がない校内の歴史図書館にて、大量の古文書が太い釘で打ち抜かれているのを守衛が発見する。容疑者として浮かび上がったのは、将来を嘱望された若き哲学科の主任教授(ラズ・デガン)だった。教授は前日の学年末の授業を最後に突然姿を消して車でポー川に辿り着き、川岸にある朽ちかけた小屋を発見してそこに住み着いた。やがて、教授はその風貌から村人たちに“キリストさん”と呼ばれ、交流を深めていくのであったが……。
序盤での“古文書大量虐殺”をサスペンスタッチで描いてこの奇妙な事件を観る者に興味を抱かせ、作品の世界へと引き込ませる。その後は、メイン舞台となるポー川周辺の風景描写を鮮やかな美しさで魅せつけたり、教授と村人たちとのダンスパーティーや語らいといった交流が好印象を与える。
本作はイエス・キリストの寓意を潜めた宗教色のある作品であるが、小難しいことを考えさせたりプロパガンダ要素を強く押し出してムキになったりしていないことが観易くて良い。サスペンス、芸術性、教授と村人たちの交流を堪能するだけでも十分だと言いたい。
(佐々木貴之)