ベルサイユの子 - 佐々木貴之

◆小難しさや堅苦しさを感じさせないごく普通の人間ドラマ(75点)

 パリの夜の街を彷徨う若い女ニーナ(ジュディット・シュムラ)と息子エンゾ(マックス・べセット・ドゥ・マルグレーヴ)は、ベルサイユ宮殿付近の森にたどり着く。森の中に入り込んだ二人は、社会からドロップアウトしたホームレスの男ダミアン(ギョーム・ドパルデュー)に出会う。ニーナとダミアンは一夜をともにした後、エンゾを置いてきぼりにして姿を消してしまう。ダミアンはこの事態に困って憤るが、一緒に過ごしているうちに親子同様になってしまう。

 失業、ホームレス、社会不適応といったフランスの現代社会が抱える病的問題を浮き彫りにする本作は、劇中で観られるベルサイユ宮殿付近の森で暮らす人々の描写がその象徴となっている。実際に宮殿付近には多くのホームレスが生活しているのである。

 社会派の要素が取り入れられているものの、ストーリーはエンゾとダミアンの交流を中心に描いているため、小難しさや堅苦しさを感じさせないごく普通の人間ドラマとして仕上がっている。

 ニーナはホームレス状態から脱却し、社会復帰を目指して介護施設職員として一からスタートするべく頑張る。一方で幼いエンゾを抱えてしまったダミアンもエンゾのことを思って社会復帰を目指し、しばらく会っていなかった父が暮らす自宅に戻って日雇いの解体業からスタートする。エンゾも学校に通うことになる。社会から外れてしまった三人の主要人物の成長を淡々と描いているが、学校という社会が初体験のエンゾはクラスの子供たちとなかなか打ち解けなかったりといったやや厳しい描き方となっている。

 監督のピエール・ショレールは、本作が長編デビュー作となる。明るさと暗さを使い分けて現代社会が持つ光と闇を表現した。この腕前は高く評価したい。

 ギョーム・パルデューが男臭いワイルドな風貌で野生男ダミアンを演じ、見た目と役柄が見事にマッチしていて印象深い。負けキャラであるものの好感を抱いてしまうほどのナイスガイなのである。残念ながらギョームは08年に37歳の若さで病死しており、本作が遺作となってしまったのである。もし、彼が今でも生きていれば、本作以降の出演作に大きな期待を抱いていたことだろう。エンゾ役のマックス・べセット・ドゥ・マルグレーヴの存在感もかなり大きく、可愛らしい良い子役だ。

佐々木貴之

【おすすめサイト】