竜宮城はベトナムにあったのです。 (点数 65点)
(C)「ベトナムの風に吹かれて」製作委員会
認知症の現実とベトナムの市井をみせる大森一樹監督の新作。
ベトナムのハナイの町に流れる日本語ラジオ放送からはじまる本作は、近年量産されている認知症患者の現実にベトナム文化を交えた興味深い一篇となっています。
ハノイで日本語教師として働くみさお(松坂慶子)の元に、父の訃報が飛び込んできます。
葬儀に出るために故郷の新潟でみさおが目のあたりにしたのは、認知症を患い夫の死さえ理解していない母のシズエ(草村礼子)の姿でした。
みさおは血縁者の反対を押し切り、母シズエをベトナムに連れて行くのです。
ベトナムで母との生活をはじめるみさおには多くのハプニングが待ち受けているのですが、ベトナムの人々の暖かさが、言葉の壁を越えて人々の生活に溶け込んでゆくのです。
ある日、みさおの青春時代の旧友・小泉(奥田瑛二)と再会しノスタルジアを語り合います。
元ジャーナリストだった小泉も今は一文無しで、ハノイで輪タクの仕事をはじめ、観光案内でみさおの母シズエを乗せたところ事故を起こし、シズエは重態、みさおは介護をすることになります。
怪我と認知症の母と向き合うみさお自身が精神的にまいっていく過程がリアルです。
本筋とパラレルにベトナムでとても有名な、日本で言えば原節子のような女優が認知症ながら当時の演目を覚えていて劇場関係者やファンが再演を計画したり、日本の人々がホテルや居酒屋で働きながら市井に溶け込む姿も清々しいのです。
サプライズゲストで、お話にうまく絡めて吉川晃司がカメオ出演もあり嬉しい展開。
本作のキーは、心の潤いではないでしょうか?
先進国日本から離れたベトナムの観光案内的要素もいれつつ、暖かい人と人との繋がりをみせてくれます。
劇場を後にするとふとハートに灯がともるような作品に仕上がっています。
共演は、藤江れいな、山口森広、貴山侑哉、斎藤洋介、松金よね子、柄本明 ほか
p.s.
筆者はその昔、大森(感得)組の映『悲しき天使』にフィルムコミッションで関わったことがありますが、監督は苛立つことも怒鳴るとこもなく、淡々と役者にまかせながら撮っていき、尚且つ現場との協調性ももちながらも自分の画をつくり上げる名匠だと感じたものでした。
☆オフィシャルサイト:http://vietnamnokaze.com/
(中野 豊)