ベスト・キッド - 岡本太陽

ベスト・キッド

◆「ジャケットかける、ジャケットとる」?(70点)

 「ワックスかける、ワックスとる」ではなく、「ジャケットかける、ジャケットとる」になった84年のリメイク版『ベスト・キッド(原題:THE KARATE KID)』。物語の舞台も中国・北京に移し、異国の地で12歳のアメリカ人の主人公ドレ・パーカー(ジェイデン・スミス)は“カンフー”に魅せられる。「え、空手じゃないの?」と疑問を抱く人も少なくないだろうが、物語の中で主人公の母親が言う様に、そのあたりの事情は「Whatever(どうでもいい)」なのだ。

 父を失い心にぽっかり穴が空いてしまったドレは物語の冒頭で母親シェリー(素晴らしいタラジ・P・ヘンソン)の仕事の都合で北京に引越す。新しい環境の中でカルチャー・ショックを感じつつもメイ・イン(ウェンウェン・ハン)という少女にときめくドレ。ところがそれが原因で彼は学校のいじめっ子達に反感を買ってしまう。いきなり恐怖を植え付けられてしまったドレにいじめっ子たちの嫌がらせは止まず、ある日彼が窮地に陥っているが、アパートの管理人ハン(ジャッキー・チェン)がカンフーでいじめっ子達を一掃。強くなりたいドレはハンの指導のもと徐々に才能を開花させてゆく…。

 『ピンクパンサー2』等で知られるハラルド・ズワルトが監督する本作は主人公が高校生だった84年版よりもさらに若年向けに作られているにも関わらず、2時間12分という上映時間。ところが、ほとんどを北京で撮影し、古きと新しきの混在する街の風景を見せつつ、母と子、師匠と弟子、また恋のエピソード、と実にスピーディで簡潔に様々な展開をしてゆくため、例え子供でさえもその上映時間に集中力を欠かないよううまく作られている。

 80年代の『ベスト・キッド』を観て日本のマーシャルアーツに心躍らせた世代が皆観ていたものはやはりジャッキー・チェン主演の香港映画。彼を本作のサイドキックとして登場させるのは非常に面白い試みだが、ジャッキー・チェンという人のキャラクターをうまく役に反映させていないのが気になるところ。その役柄は新鮮ではあるもののシリアス過ぎるのだ。夏のハリウッド映画だからこそ、あのお茶目で愛らしいジャッキーが物語の中にいると、映画としてよりしっくりしたはず。

 そんなジャッキーを完璧に食ったのは主人公扮するジェイデン・スミスという逸材。夫婦でプロデューサーを兼ねるウィル・スミスとジェイダ・ピンケット=スミスの息子で、ハリウッドの恩恵を受けて育ったサラブレッドの彼の俳優としての才能は計り知れない。彼を主人公に起用したのは本作の誇れる点で、スターのエネルギーが小さな体から溢れ出ているのが見えるはず。父親同様、これから柔軟に器用に映画界での活躍が期待される。

 80年代の『ベスト・キッド』のストーリーラインはそのままに、またいくつかのシーンで過去の作品にオマージュを捧げている2010年版。映画の肝である空手がカンフーになってしまった事で、リメイクというよりは真面目なパロディに近い印象を与えるのは計算か、計算ミスか。サマームービーであるため、そのあたりの事はやはり「Whatever(どうでもいい)」のだろう。

 子を持つ親となった人も少なくない80年代『ベスト・キッド』を観て育った世代。次は彼らの子供達がアジア文化に興味を持つ番。それに選ばれたのはやはり中国。『アリス・イン・ワンダーランド』といい、ハリウッドは子供達に中国に目を向けさせようとしている様だ。

岡本太陽

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