ベスト・キッド - 福本次郎

ベスト・キッド

◆老人が少年にカンフー教える過程で、鍛える目的は己に克つことだと諭し、内面の成長を促すのが心地よい。格闘技を知らない主人公が、トレーニングで技を磨きたくましくなっていく様子が、肉体は嘘をつかないことを証明する。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 文化の違い言葉の違いそして肌の色の違い。古い伝統と新しい文明が入り混じる北京で、米国から来た少年は誰にも気持ちを理解されない孤独を覚える。自分を主張して周囲に存在をアピールしなければ生き残っていけない故国とは異なり、人間関係が最優先される世界で彼は異分子として徹底的に排除される。それは容赦のない暴力となって彼を襲うが、一方で眠っていた彼の本能を目覚めさせる。老人が少年にカンフー教える過程で、鍛える目的は敵を倒すのではなく己に克つことだと諭し、内面の成長を促すのが心地よい。何より、最初はまったく格闘技を知らなかった主人公が、トレーニングで体を作り技を磨き、みるみるたくましくなっていく様子が、肉体は嘘をつかないことを証明する。

 北京の中学校に転校したドレは、チェンという悪童に目をつけられ殴られる。ある日、放課後にチェンたちに袋叩きされているところをハン老人に助けられたのをきっかけにドレはカンフーを習い始め、ドレとチェンはオープントーナメントで決着をつけることになる。

 いじめにあっているのを母親に言えずいら立ちを爆発させていたドレが、ハン独自の特訓で自信をつけていく。また、ドレの精神力を高めるためにハンは山奥の寺院に彼を連れていくが、そこは仙人のような僧が修行中の張りつめた空気が流れていて、その峻険な峰の頂上に作られた石造りの建物は神殿のごとき厳かな趣。ミシェル・ヨーがコブラの心を操る訓練をするシーンがあるが、神業と思えるほどの凛とした美しさに包まれ、身が引き締まる思いだった。

 やがてトーナメントが始まり、ドレはチェンと決勝で拳を交える。実はチェンや他の同門生も彼らの師匠の勝つためには手段を選ばないやり方にうんざりしていて、試合後にはドレの健闘を称え、ハンに礼をもって敬意を示すあたり、本当は彼らも強いだけの武術家より尊敬される武術家を目指しているということが描かれていて救いになった。結果だけを追い求める師匠の哲学はまさに米国流の資本主義に通じ、反対にハンが唱えるのは鍛錬を通した自己との対話というスピリチュアルな価値観。米国人が持ち込んだ資本主義に毒された中国人を、儀を重んじる中国人の精神を叩き込まれた米国人が打ち破るという構図は、あまりにも急速な資本主義化に疑問を抱いている中国人が少なからずいる事実を物語る。

福本次郎

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