ベオウルフ/呪われし勇者 - 岡本太陽

ロバート・ゼメキスが手掛けるフルCG一大叙事詩(75点)

 今秋公開の映画の中でひと際異彩を放つ作品がある。その題名は『ベオウルフ/呪われし勇者(原題:BEOWULF)』という。なぜこの映画が他の作品とは異質かというと、すべてCGで作られた映画だからだ。フルCGアニメーション映画は近年よく見かけるが、『ベオウルフ/呪われし勇者』はアニメーションとは言い難い程限りなく実写に近づいた革新的作品である。

 今回監督を手掛けたのはロバート・ゼメキス。彼は手掛ける作品にCGをふんだんに使用する常に時代の先端を行く監督である。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『フォレスト・ガンプ/一期一会』『キャスト・アウェイ』等で有名で、特に『フォレスト・ガンプ』ではアカデミー作品賞、監督賞を受賞した。またロバート・ゼメキスが監督した前作『ポーラー・エクスプレス』では、この『ベオウルフ/呪われし勇者』と同じ手法で制作されているが、後者の方が目に映るものがよりリアルであることは歴然である。

 『ベオウルフ/呪われし勇者』では主役のベオウルフをレイ・ウィンストン、デンマークの王フロスガールをアンソニー・ホプキンス、その女王をロビン・ライト・ペン、夜な夜なフロスガールの宮殿に現れる巨人グレンデルをクリスピン・グローバー、その母をアンジェリーナ・ジョリーが演じる。その他ジョン・マルコヴィッチ、ブレンダン・グリーソン、アリソン・ローマンが出演している。実写超大作映画となんら変わらない豪華な出演陣である。

 ところで、この映画『ベオウルフ/呪われし勇者』の基になった物語は、制作された時期がおおよそ8世紀から9世紀の間とされており、英文学最古の作品のひとつとされている。また作品は主人公ベオウルフの若き時代を描く第1部、老域に達し彼が死ぬまでを描く第2部による2部構成の叙事詩となっている。作品の中にはドラゴンやその他モンスター等が出て来る故に、「ベオウルフ」はファンタジーの源流であるという声もある。

 6世紀デンマークでは王フロスガールは宮殿が完成したことを受け毎晩宴を開いていた。あまりのうるささに腹を立てた巨人グレンデルはある晩宮殿を襲撃し、何人もの民を虐殺する。その報告を受けてデンマークにやって来たのはベオウルフ一行。フロスガールはベオウルフに誓う、もしグレンデルを倒したら女王をくれてやると。そしてその晩ベオウルフはグレンデルの出現を待っていた。武器も鎧も装備せず全裸で。なぜならグレンデルは生身で、ベオウルフはそれと同じ状況で戦うという。そして現れたグレンデルを退治し、グレンデルの片腕をもぎ取るベオウルフ。巨人は彼の棲家に逃げる。フロスガール王はベオウルフの功績を讃え彼に金色の竜の角笛を渡す。ベオウルフの手柄でようやく宮殿に平穏が訪れたかのように思えたが、次の晩ベオウルフが悪夢から覚めると、彼の従者達が皆惨殺されていた。フロスガール王はそれはグレンデルの母親の仕業という。王はもしグレンデルの母を退治したならば、王の座を譲るとベオウルフに約束する。グレンデルの母の棲む洞窟に向かったベオウルフだがそこで待ち構えていたものは美しく妖艶な女性だった。彼らは戦わず、ある契約を交わす。その竜の角笛と引き換えに…。

 この脚本を手掛けたのはイギリス人SF作家のニール・ゲイマン。彼は今年夏に公開された『スターダスト』の原作者でもある。そしてもう1人の脚本家はクエンティン・タランティーノと旧友であり、『ルールズ・オブ・アトラクション』を監督したロジャー・エイヴァリー。彼はタランティーノと共に『パルプ・フィクション』の脚本を手掛けている。ニール・ゲイマンとロジャー・エイヴァリーが共同で脚本を手掛けた事により、この『ベオウルフ/呪われし勇者』はファンタジーだがバイオレントな作品に仕上がっている。残酷なシーンが多いので、おそらく小さな子供には恐怖映画に映るだろう。

 しかしながら、その脚本家達が手掛けたこの映画のストーリーは複雑さを呈さない。内容はぼーっとしていても分かる程単純明快だ。よって十二分に革新的な映像に集中することが出来るだろう。わたしはIMAX 3Dでこの映画を鑑賞したが、その映像の迫力は未だかつて体験したことのないものだった。ユニバーサル・スタジオ等の遊園地にある3Dアトラクションの1 つを2時間続けて観ている様なものかもしれない。矢を放つシーンでは本当に自分にたくさんの矢が飛んで来る様に感じ、よけてしまう。体感するという言葉がぴったりの作品だ。

 この映画の見どころはやはり映像にあるが、その中でも凄いと感じたのは毛だ。髪の毛、髭、腕の毛、胸毛、産毛等、それらは今までのCG作品に見られなかった程リアルである。もうほとんど本物に近い。人物自体は時折、不自然で16、17世紀の画家の絵画と実写の中間くらいに見えることがあるが、毛に関しては目を疑う程精巧な出来映えである。

 それからこの映画の中で1番忘れられないのはアンジェリーナ・ジョリーだ。裸の上に金色の液体を垂らしている姿は変態そのもの。エロスというよりは可笑しい。またベオウルフは事ある度に脱ぎたがるのだが、特に『イースタン・プロミス』のヴィゴ・モーテンセンばりにグレンデルと裸で格闘するシーンは笑える。股間が見えそうな時には常に障害物が前にあり、それがどうしようもなく奇妙なのだ。確かにリアルなCGなので、本物ではないにしろ成人男性の股間がリアルに映っては子供にはショックかもしれないし、一部鑑賞者を除いては気分を害するかもしれない。わたしはきっと股間が映らなくても笑ってしまうし、映っても笑ってしまうだろう。

 「ベオウルフ」という一大叙事詩をアンジェリーナ・ジョリーとベオウルフの裸である意味B映画チックに仕立てた制作者達に敬意を捧げる。

岡本太陽

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