◆B級娯楽映画のツボをしっかりと押さえられている(60点)
アメリカの有名な暴走族“ヘルズ・エンジェルス”の影響で、1960年代末から70年代初期にかけて多数のバイカー・アクション映画が製作された。中でも有名なのは、やはり『イージー・ライダー』であり、その他の作品は単なるB級娯楽映画として映画史から忘れ去られていったのである。日本ではこれらの作品は殆どが未公開であり、劇場公開及びDVDやビデオ化された作品はごく一部である。そんな日本でもこの手の作品が70年代に製作され、岩城滉一主演の『暴走族』シリーズや暴走族“ブラック・エンペラー”の実態に迫ったドキュメンタリー『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』(76)は、意外と知名度が高い。
バイカーアクション映画に多数出演してきた伝説の役者兼監督のラリー・ビショップが監督、主演、脚本、製作の四役を務め、そしてこのジャンルの作品をこよなく愛するクエンティン・タランティーノが製作総指揮を務め、昔懐かしのバイカーアクションを再現させたのが本作である。
暴走族“ヴィクターズ”のピストレロ(ラリー・ビショップ)、ジェント(マイケル・マドセン)、コマンチ(エリック・バルフォー)は、敵対する“ シックス・シックス・シックス”のメンバーに仲間のうちの一人を殺害されたため、復讐を果たすべくこのグループのボスであるビリー(ヴィニー・ジョーンズ)を追う。
B級らしさが遺憾なく発揮されており、まさに本格的だ。単純明快なストーリー、適度なバイオレンス・アクション描写、随所に散りばめられた露出度高めのセクシー描写、84分の上映時間という具合にB級娯楽映画のツボをしっかりと押さえられていることは大いに認めたい。だが、簡素化されたストーリーを敢えて複雑化させる、売りモノであるバイオレンス・アクションにパンチが効いていないがために面白さが発揮されずに盛り上がらないといった問題点が面白さを大幅にパワーダウンさせており、非常に残念だ。それでもこれこそがB級娯楽映画に相応しい作風だとも言えるが、どうせやるなら娯楽に徹してド派手な見せ場をふんだんに取り入れ、ストーリーはあってないようなものにしてテンポよく仕上げて欲しかった。
B級映画でもあると同時に本格的なアウトロー映画でもある。ワルな中年男たちによる暴力、殺し、ドラッグ、不純な性交が蔓延している。ワルの匂いがスクリーンから漂ってくるような感じでアウトローの世界観をしっかりと形成しており、その魅力を存分に満喫できる。
アメリカでは二週間で打ち切りとなった本作。日本では“二週間限定”や“レイトショーのみ”といった形態があるもののどちらにも当てはめずにストレートに公開している。恐らくタランティーノ効果だと思うが、もし本作にタランティーノが関わっていなかったら未公開のDVD・ビデオスルーになっていたのかも知れない。面白いか否かは別として、本作のような掘り出し物、お気軽系、暇潰し系のB級娯楽映画はファンのために今後もドンドンと公開した方が良いだろう。
タランティーノの『グラインドハウス』企画の延長上のような感じの男性向け作品。バイク好きやアウトローの世界に憧れている方にオススメだ。
(佐々木貴之)