プール - 福本次郎

そのプールの水は清潔で底まで透き通っているが、周りに集う人々は決して飛び込もうとはせず、浅い部分に足をつけるだけ。それは、心を閉ざしているわけではないのに、他者との関係に深入りしようとはしないヒロインの象徴だ。(50点)

プール

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 そのプールの水は清潔で底まで透き通っている。しかし、周りに集う人々は決して飛び込もうとはせず、浅い部分に足をつけるだけ。それは、別に心を閉ざしているわけではないのに、誰もが他者との関係に深入りしようとはしないこの作品の登場人物を象徴している。せっかく日本からはるばるタイまで母に会いに来たのに距離を縮められない娘、娘の気持ちを知りながらもなお自分の生き方を変えない母。実の親子といえども所詮は他人、理解し合えないとわかっているからこそ傷つくのを恐れて相手に深く踏み込まないのだ。

 卒業旅行でチェンマイ空港に降り立ったさよは市尾という青年の出迎えを受け、母・京子が働くゲストハウスに向かう。さよと京子の間にはよそよそしい空気が流れ、さよは夕食も取らずに自室に戻り寝てしまう。

 ゆったりと流れる時間の中、さよは市尾やゲストハウスのオーナー・菊子と世間話をしてブラブラしているだけ。京子を観察し、彼女の真意を見極めようとしているのだが、京子のほうは特に隠し事があるわけでもなく淡々と日常の仕事をこなしていく。何かが起きそうな予感とは裏腹に何も起きない。たださよの京子に対するわだかまりだけが浮き彫りになっていく。鍋パーティの夜やっと2人だけになり、さよは京子に思いをぶつけるが、平行線をたどる母娘のすれ違いに空恐ろしいものを感じた。

 京子はやりたいことをするために平気で家族を捨てた。そんな京子を自分勝手となじるさよ。さよは京子の口から謝罪の言葉を期待していたはずだ。極めて常識的なさよの意見を聞き流す京子は、一方でビーという地元の少年をわが子のように面倒を見ている。血のつながりよりもその時の気分で愛する人を決める京子に、決定的な考え方の違いを感じたさよは彼女を憎むことのむなしさを感じたのだろう。結局、和解も涙の抱擁もなく、さよはチェンマイを去る。裸の感情をぶつけ合うような濃密な人間関係を築けないわが身に気付いたさよは、コムロイに何を願ったのか。この母娘に再会はないと思わせるラストシーンは、愛の残酷さがにじみ出ていた。

福本次郎

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