ブラインドネス - 岡本太陽

全世界の人々が突然失明してしまったら…。フェルナンド・メイレレス監督最新作(60点)

© 2008 Rhombus Media/O2 Filmes/Bee Vine Pictures

 人にとって目は生きる上で非常に重要な役割を果たしている。もしそれが突然見えなくなってしまったら、あなたの世界はどう変わってしまうだろうか。いつも眺めていた景色も、好きだった映画も、あなたにとって大切な人の顔も見えなくなってしまう。映画『ブラインドネス(原題:BLINDNESS)』では人が突然盲目になるという出来事が世界規模で起こる。本作は人が盲目になった世界を描く人間観察記だ。

 この映画の監督はアカデミー賞にもノミネートされたブラジル人映画監督フェルナンド・メイレレス。彼の初長編映画『シティ・オブ・ゴッド』で日本でも人気を博し、初めて英語で撮った映画『ナイロビの蜂』ではレイチェル・ワイズをアカデミー賞女優へと導いた。わずか2作品で国際的な映画監督になってしまったメイレレス氏。その彼がどうしても映画化したかったのが『ブラインドネス』の原作で、ノーベル文学賞作家ジョゼ・サラマーゴの1995年のベストセラー小説「白い闇(原題:Ensaio sobre a Cegueira)」だ。脚本は俳優でもあり、本作にも出演しているドン・マッケラーが手掛けた。

 物語の中で、まず伊勢谷友介扮する男の目が突然見えなくなる。それは全てが真っ白に見えてしまうという今までにない盲目で、彼を検査するマーク・ラファロ扮する眼科医も同じ症状にかかってしまう。次々と人々は「白い闇」の犠牲になってゆき、それは世界規模の問題に拡大する。そして人々はそれが病気なのか何かも分からないままある施設に強制的に隔離されてしまう。歩く事も、食べる事も、そして自分で排泄する事も困難な状況に人々は苦しむが、ガエル・ガルシア・ベルナル扮するその第三病棟の王の出現により、そこに収容されている人々は更なる地獄を味わう事になる。

 この施設には1人だけ目が見える女性がいる。それはジュリアン・ムーア扮する眼科医の妻だ。彼女はこの物語の中で守護神の様な存在。悲惨な現状を目の当たりにし、「いっそ、目が見えなくなればいい」と唯一目が見えている事に嘆くが、人々を導き、手を差し伸べる。医者の妻や木村佳乃扮する最初に失明した男の妻やアリス・ブラガ扮するサングラスの女等、この映画の中では女性の存在が非常に大きい。彼女達は男性のキャラクターよりも強い存在として描かれている。生命の危機に瀕した場合、男性よりも女性がその状況を救えるのかもしれない。

 フェルナンド・メイレレス監督の作品ではシューティングスタイルが魅力の1つに挙げられ、『ブラインドネス』でも撮影には工夫を凝らしている。例えば、医者の妻達が生活する病棟で撮影を行った時は、全ての俳優達がその時に何をしているか撮るために、3、4つのカメラを同時に回したという。また、登場人物の失明の感覚を観る者にも伝えるため、ぼんやりした映像が多いのも特徴だ。それからサウンドでも人々の困惑した状況を表現するため、例え誰かがカメラに映っていても、他の誰かが話していたり、どこからともなく映像とは関係のない音が聞こえて来るという手法を使っている。目が見えなくなった時、頼りになるのは耳。音が生活する上で最も重要になるのだ。隔離施設で、ダニー・グローヴァー扮する黒い眼帯の男の持つラジオの音楽に人々が聴き入るというワンシーンがあるのだが、それはゴミや糞尿がそこら中に散らばっている汚らしい生活にも関わらず、非常に美しいシーンに仕上がっている。

 本作の登場人物は名前を持たない。人々は自分自身が何者なのかを職業等で明示する。これは人々はステータスで相手を判断しようとするという、民主主義国家でよく見られる傾向で、共産主義者であるジョゼ・サラマーゴによる民主主義否定が見受けられる。物語の舞台は架空の都市。撮影もトロントやサンパウロで行われたのだが、これは民主主義国家、特にアメリカの終わりを描いている様にも感じられる。今わたしたちは盲目で、皆見えているけど、見えていないと言っている様だ。

 『ブラインドネス』は寓話的で、人々は生き地獄を体験するが、どんなに酷い事が起きてもさらっと終わる。それは制作者側の意向で、本作はダークにはなり過ぎず、むしろファンタジーに近い物語になっている。また本作は病気を描く物語でも、サバイバルサスペンスでもない。政治的な面も多少描いてはいるが、これはシンプルに突然失明してしまったら、人々はどういう行動を取るかを描いた映画だ。「百聞は一見にしかず」と言う様に、見えているものはわたしたちが信じるもの。そう考えると、大袈裟だが失明するという事はわたしたちが信じるものを失う事と同じと言える。そしてその時、はじめてわたしたちは既に盲目だったという事に気付くのかもしれない。

岡本太陽

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