ブライト・スター いちばん美しい恋の詩(うた) - 福本次郎

◆ヒロインの感情を大きな窓から入る陽光で代弁する映像を見ていると、映画もまた光の恩恵に与るアートであることを改めて認識させられる。そしてそれは、朗読の響きと記された言葉によって補強され、官能の香りさえ帯びてくる。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 まだ電気がなかった時代、人は窓辺で本を読み文をつづり服を縫っていた。そんなごくありふれた日常の風景なのに、ジェーン・カンピオンの感性を通すと人生における大切な1コマのごときかけがえのない美しさを放つ。ヒロインの喜怒哀楽を大きな窓から採り入れられた陽光が代弁するような映像を見ていると、映画もまた光の恩恵に与るアートであることを改めて認識させられる。そしてそれは、口に乗せた時の響きと手紙に記された言葉によって補強され、禁欲的な愛のはずが逆に官能の香りさえ帯びてくるのだ。

 裁縫が得意なファニーは隣人のキーツが出版した詩を読んでその世界に惹かれる。キーツのもとで詩を学ぶうちにふたりはお互いの存在を意識し始めるが、貧乏なキーツとの交際を周囲は反対する。

 夜会での男声コーラス、フランス人講師によるダンスレッスンといった19世紀初頭の市民階級の社交の場が楽しい。男女関係も開放されつつあり、おおらかに相手を選ぶことができるようになった時代、ファニーはその自由を謳歌しているよう。自らも針仕事でプロ並みの腕前を持つことで、母親世代の干渉を拒む強さも身につけている。また、胸元が広く開いたドレスでキーツの目をくぎ付けにしながら、一方で固く結んだ髪はキス以上の接触を拒んでいる。現在進行形の恋に一喜一憂しながら身を焦がす思いに殉ずるほど短絡的でもない。物語はファニーの気持ちを丁寧に追いながら、キーツが謳いあげた愛の真髄を紐解いていく。

 キーツがよこす手紙にキスをし、「夏の蝶」を詠んだ詩に感化されて自分の部屋で大量の蝶を放し飼いにするファニー。恋の素晴らしさを謳いあげる前半とは一転し、後半は離れ離れになった辛さばかりが強調される。さらに転地療養のためにローマに渡ったキーツとはそのまま今生の別れとなる。それらのエピソードが並列に淡々と語られるために全体の構成からみると盛り上がりに欠け、語り口が単調になってしまったのが悔やまれる。キーツの詩に頼るのではなく、もう少し感情的に盛り上がるシーンを用意してもよかったのではないだろうか。。。

福本次郎

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