◆わずか25歳でこの世を去ったロマン派の詩人ジョン・キーツの純愛物語は、プラトニックゆえの官能性に満ちている(65点)
夭折した天才詩人キーツの恋を描く繊細な恋愛ドラマだ。1818年、ロンドン郊外に若き詩人のジョン・キーツがやってくる。親友のブラウンの家で暮らす彼は、隣家に住む、刺繍やダンスが大好きな娘ファニーと惹かれ合う。詩人として駆け出しのキーツは、評論家の酷評や弟の死、貧しさなどに苦しみながらも、ファニーとの淡い恋の中で、次々に完成度の高い作品を生み出していく。だが、キーツは弟と同じ肺患を患ってしまい…。
ヒロインはよく窓辺に座っている。猫を抱いて物思いにふけったり、光にかざして手紙を読んだり、美しい緑を眺めたり。まだ女性が社会の中で自由ではなかった時代、窓辺にたたずむ行為は、広い世界への憧れのように見える。何しろファニーは、弟や妹らの付き添いなしには、愛するキーツに会うことさえ難しいのだ。だがこのような厳格な時代の空気が映画全編に漂う品格となって、はかなく美しい恋の、内に秘めた情熱を際立たせた。わずか25歳でこの世を去ったロマン派の詩人ジョン・キーツの純愛物語は、プラトニックゆえの官能性に満ちている。ブライト・スターとは「煌く星よ」というキーツの詩からとられたタイトルだ。ファニーとの純愛が、キーツの詩才を刺激し、美しい作品が生まれていく様子はみずみずしい輝きに満ちているが、病の身体で一人イタリアに旅立つキーツと彼と共に行けない悲しみを押し殺すファニーの表情もまた、残酷なまでに美しい。19世紀の英国には、伝統と革新がせめぎあっている。そんな時代の中、「平凡な50年を生きるより、夏の3日間を生きる蝶でありたい」と願う若い恋人たちはどこまでもピュアだ。襟につけたレースの手触りや、柔らかいリボン、優雅なドレスの衣擦れの音まで伝わってくるようで、細部にまで神経が行き届いている。ジェーン・カンピオンの十八番である硬質でストイックな少女の世界がここには確かにある。快活で知的なファニー・ブラウンを演じるアビー・コーニッシュの、何かを強く決心したような横顔が忘れがたい。
(渡まち子)