◆ほんの少しの不注意とわがままが恐ろしい状況を生むという、このバッド・シチュエーション映画はかなり怖い(60点)
もしかしたら自分にも起こるかも…。そんなリアルな恐怖に襲われるシチュエーション・スリラーだ。主な登場人物は3人だけだが、不安やエゴが交錯し、緊張感が途切れることはない。スキー場にやってきたダン、ジョー、パーカーは、夜、最後の滑りを楽しもうとリフトに乗りこむが、山頂へと向かう途中でリフトが突如ストップしてしまう。氷点下の気温の中、携帯電話も食料もなく、助けの声も届かない。ゲレンデの再開は1週間後で、宙吊り状態のままでは確実に凍死してしまう。3人はなんとか脱出を試みるのだが…。
サメだらけの海に取り残される「オープン・ウォーター」、ワニだらけの沼に取り残される「ブラック・ウォーター」に続き、本作では、身一つで極寒のスキー場のリフトの上という“開かれた密室”に取り残される。日本のように大混雑のスキー場とは違い、アメリカの広大なスキー場では人っ子一人いない景色というのもアリなのだろう。空中高く取り残された3人は、飛び下りれば骨折、リフトの線をつたうのは危険すぎ、運よく無事に下に降りても野生の狼がいるという最悪の状況だ。シチュエーション・スリラーのお約束で、すぐ近くを人が通るのに助けの声が届かないというもどかしい状況も用意されている。手袋を失くし素手でつかまったリフトのバーに皮膚がはりついて流血するなど、かなりイタい場面も。上手いのは、3人の微妙な距離感だ。ダンとパーカーは恋人同士で、付き合って1年目。ラブラブだが決して長い付き合いではない。一方、ダンとジョーは子供の頃からの親友同士で、ジョーはダンが恒例のスキー旅行に、スキー初心者の女の子なんかを連れてきたのが気に入らない。親しみを持てないジョーとパーカーが互いをなじったり、なぐさめあったりする経緯が緊張感を高めている。不満なのは、リフトに乗るまでの出来事や会話が脱出劇に役立っていないこと。女の子の電話番号を覚えたり、スキー場のリフト係を丸め込んだり、スキーとスノボの違いを論じたりする場面が、一見伏線のように見えてまったく生きてこないのは残念だった。それでも、ほんの少しの不注意とわがままが恐ろしい状況を生むという、このバッド・シチュエーション映画はかなり怖い。アダム・グリーン監督は本作が日本初公開。限定空間での恐怖を上手く維持した手腕を評価したい。
(渡まち子)