◆男女3人がスキー場のリフトに取り残される雪山版「オープン・ウォーター」(2003)。新鋭アダム・グリーン監督の手腕は確かだが、ストーリーにひねりが欲しい(67点)
「HATCHET/ハチェット」(2006)が日本で劇場公開されなかったのは残念だった。スプラッター映画が全盛だった1980年代を彷彿とさせるホラーの秀作だったと思う。監督はこれが劇場向け長編デビューとなるアダム・グリーン。新人だが、確かな演出力を感じた。
そのグリーン監督の、日本で最初の劇場公開作となるのが本作「フローズン」だ。週末、スキー場のリフトに取り残された男2人と女1人の物語。スキー場の営業が終わり、地上15メートルの高さでリフトが止まってしまう。次の営業開始は1週間後で、気温マイナス20度、吹雪に加えて尿意まで襲ってくるという絶望的な状況だ。
ダイビングの後、360度何もない海の中で夫婦が取り残されてしまう「オープン・ウォーター」の雪山版である。出演者はほとんど取り残された3人だけ。当然、舞台もほとんどリフトの上だけ。どうやってストーリーを展開させ、約1時間半の上映時間を持たせるのか、という興味がわいてくる。結果は、期待通りともいえるし、期待外れともいえるものだった。
さすがにグリーン監督だと思ったのは、最後まで緊張感が持続し、飽きさせない点。「ハチェット」は、派手なスプラッターと笑いのバランスが優れていたが、今回は、笑わせるような場面はほとんどない。基本的に、サスペンスで押して成功している。高さも寒さも伝わってきて、なかなか手に汗握る展開だった。グリーン監督らしいスプラッター描写がふっと顔を出す所もあって、その部分には悪意のある黒いユーモアも感じた。
逆に残念だったのは、リフトに乗るまでの様々な出来事が、後半で全く生かされていないことだ。例えば冒頭で、曰くありげなリフトの係員が登場したり、主人公の一人がゲレンデで声をかける女性の電話番号を暗記しようとしたりするが、それらが後半のドラマの伏線になっているのかと思っていたら、まるで無関係なので驚いてしまった。
リフトの上に取り残されるというアイデアはいいものの、ただそれだけで、展開がいき当たりばったりの印象なのだ。いくら何でも、もう少しストーリーにひねりが欲しい。
それでもきっちりとサスペンスを盛り上げたグリーン監督の手腕は確かなものだといえるだろう。ホラーの新たな才能として期待したい。
(小梶勝男)