フローズン・リバー - 福本次郎

◆食事にも事欠く米国貧困層の生活がリアルだ。体に刻まれた下品なタトゥーが過去を暗示し、乱れた髪とかさついた肌が現在を明示するが、子供たちの前では決して弱さを見せないヒロインの姿が母親としての覚悟を象徴する。(70点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 トレーラーハウスに住み子供たちの食事にも事欠くほどなのに、リビングルームには巨大な液晶テレビが置かれている。収入はわずかなのに消費は止められない米国貧困層の生活ぶりがリアルだ。ただ、現金のために仕方なく犯罪に手を染めても良心まで失っているわけではなく、不法行為はしてもモラルの線引きはしている。それは子供たちには少しはましな人生を送らせてやろうという心使い。ヒロインの体に刻まれた下品なタトゥーの数々が過去を暗示し、乱れた髪とかさついた肌が現在を明示するが、日々成長を続ける子供たちの前では決して弱さを見せない彼女の姿が母親としての覚悟を象徴している。

 新居購入資金を夫に持ち逃げされたレイは、カジノで夫の車を運転する先住民の女・ライラを目撃、後を付けて車を取り返そうとする。代わりにライラからビザなし労働者の密入国の手引きを持ちかけられ、レイとライラは凍った川を車で渡りカナダに向かう。

 ライラは夫に先立たれた上に赤ちゃんを義母に奪われ生きる気力を無くしている。レイはそんな彼女の境遇に同情したのか徐々に胸襟を開いていく。パキスタン人の荷物を氷の上に捨てたレイが、中身を知るとあわてるシーンがあるが、チンケな男なら決して取りに戻ったりしないだろう。こんなところでも母親ならではの強烈な感性がレイの中には生きていて、法律は破っても人の心は持ち続けている温かさが映像からあふれ出し、ひどい身なりの彼女がいつしか勇気ある美しい女性に見えてくる。

 この事件をきっかけにライラは正業に就くが、レイは新居購入のためにもう一度だけ裏ビジネスを頼む。だが、不運が重なり警察の知るところとなる。女の友情、弱い者同士の互助精神、そして何より子を想う母の気持ち。そこでレイは己にできる最善の道を選ぶことで、ライラ母子も自分の息子たちも幸せに暮らせるように計らう。雪と氷に覆われた寒々とした風景に雪解けが訪れるころ、二つの家族が幸せを分かち合うかのようなラストシーンは、貧しさの中でも世の中捨てたものではないという希望に満ち溢れていた。

福本次郎

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