フローズン・リバー - 町田敦夫

◆タフで優しい女2人が、人種を超えた絆を結ぶ(70点)

 サンダンス映画祭でグランプリを獲得、アカデミー賞で脚本賞にノミネートと高い評価を受けながら、地味なるがゆえに日本での公開が危ぶまれていた作品。遅ればせながらも公開された背景には本来、配給は専門外である映画館「シネマライズ」の尽力があったらしい。その英断を称えたい。

 舞台は米国最北部。トレーラーハウスに住む(つまりは極貧の)レイは、なけなしの金をバクチ好きの夫に持ち逃げされ、子ども2人を抱えて途方に暮れている。一方、先住民保留地に住む未亡人のライラは、貧しさゆえに子どもを義父母に奪われている。そんな2人がひょんなことから手を組んで、密入国者の運び屋役を始めるのだが……。

 初めは互いをまったく信用していなかったレイとライラが、共に修羅場をくぐるうちに、人種を超えた不思議な絆を結んでいくあたりの機微が見どころ。それぞれを演じたメリッサ・レオとミスティ・アップハムは、寒村で恵まれない暮らしをする女たちの、雑草のような強さを醸し出す。白人を平気でだますライラに、護身用の銃を持ち歩くレイ。文化の違いを感じますね。

 フローズン・リバーというのは文字どおり凍った川のこと。米国とカナダの国境をなす川が凍結すると、車で密入国者を越境させる季節性の裏ビジネスが可能になる。これがデビュー長編となるコートニー・ハント監督は、密入国を図る第三世界からの移民や、怪しげなブローカーの姿を、社会派的なタッチで鮮明に切り取った。合間に織りこまれるレイと十代の息子との微妙な距離間や、先住民独特の社会慣習の描写も大変に興味深い。

 だが、何と言っても本作は、一義的には母性にまつわる物語だ。レイとライラがハードボイルドに徹することができるのも、子どもとの暮らしを守るという至高の目的があればこそ。それだけではない。2人は他人の母性にも共感し、知らずに置き去りにした密入国者の赤ん坊を、危険を顧みずに探しに戻ることもする。最後にレイとライラのどちらか一方が自首しなければならなくなった時にも、2人は互いの母性を天秤にかけて、観る者の心を揺さぶるような決断を下す。強くて優しいこのヒロイン像は、おそらくハント監督が女性だったからこそ創造し得たものだろう。

 雪解けと対比してマイナス・イメージを持たれることの多い凍った川も、見方を変えれば2つの岸の架け橋になる。白人のレイと先住民のライラという交わるはずのない2つの岸も、貧困と絶望という過酷なフローズン・リバーがあったからこそ結ばれた。人間、万事塞翁が馬。2人を中心とした新しい家族に、春の日が差すようなエンディングが、じんわりと暖かい。

町田敦夫

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