ケネディ及びジョンソン政権下で国防長官をつとめたロバート・S・マクナマラのロングインタビューを中心に構成されたドキュメンタリー。ほとんど彼の一人語りで、インタビュアーが口を挟むことはあまりない。よって肝心のドス黒い部分はソフトになっているし、驚愕の暴露!といったレベルの内容もない。
『フォッグ・オブ・ウォー』は、そんなマクナマラ氏の回想録に当時の映像をかぶせ、BGM(これはとても良い)をつけたドキュメンタリーだ。彼以外に対しては、さほど取材もしていないように見えるし、いくら米国の映画業界が民主党系リベラルに牛耳られているとはいえ、この程度のインタビューフィルムがアカデミーのドキュメンタリー長編賞を受賞するというのはいかがなものか。
もちろん、これだけの大物政治家のワンマンショーを撮る以上、アチラの意図せぬものを作るわけにはいかないという事情はあるだろう。「キューバ危機」をはじめとした歴史的事件の当事者の証言としては、たいへんに価値があるし興味深い点も多いが、それでも彼の言い分のみを一方的に伝えるだけでは、観客にとっては彼の著書を読むのと大差がない事になってしまう。
フォード社重役時代の成功談なども語られるが、それよりもっと米国の政治の裏を話してくれと思うのは私だけではなかろう。
内容について、まず彼が、奇麗事ばかり並べている点が興味深い。一例を挙げると、ヒロシマへの原爆投下について、「広島の人々の犠牲の大きさを考えたら、“つりあいのとれた”政策決定とはいえなかった」と語る場面がある。
しかし、米国の国益から考えれば、最終兵器たる核の威力を国際社会に示した上で、その後しばらく核兵器を独占したことによる安全保障上のアドバンス、世界をリードしていた原子力ビジネスを確固たるものにした経済効果という点で、大いに“つりあいはとれた”はずなのだ。そのことをよもやマクナマラ氏が理解していないはずはない。なのにあえて無難な一般論に終始しているのは、少々不満が残る。
カストロ、フルシチョフ、ケネディ等を、「みな理性ある政治家たち」と評価した上で、「それでも戦争は起きるものだ」と語る場面など、いくつもうなづける点はあったが、全体的に見ると少々物足りない。難しいとはわかっていても、作り手にはもう少し彼に突っ込んで、本音を聞き出してほしかったと思うのは、やはりわがままというものであろうか。
(映画ジャッジ)