◆嘘だらけの人生の中でたった一つの真実、それは愛。しかし、物語は要領のよい主人公のイージーな人生観を投影しているのみで、切実な感情が描かれているわけではない。せめてコメディの味付けがあれば退屈せずに済んだはずだ。(40点)
嘘だらけの人生の中でたった一つの真実、それは愛。ゲイ恋人と一緒にいるために他人をだましてカネを盗むだけでなく、恋人本人に対しても虚構を貫き通す。豪勢な暮らし、刑務所での生活、その間に膨大な労力を費やした上に、命がけの偽装までする男の奇妙奇天烈な半生を追う。しかし、「実話」と強調しているあたりそもそもフィクションと宣言しているようなもの。物語はただ要領よく世渡りするイージーな彼の人生観を投影しているのみで、そこに主人公の切実な感情が描かれているわけではない。せめてコメディの味付けがあれば、この荒唐無稽な展開も退屈せずに済んだはずだ。
心のままに生きる決意をしたスティーブンは妻子にゲイであることをカミングアウトし恋人と付き合い始めるが、意外な出費に詐欺に手を染め逮捕・投獄される。スティーブンは刑務所で知り合ったフィリップと恋に落ち、脱獄を繰り返してはフィリップに思いを届けようとする。
一応、詐欺にかけては“天才的”能力を持っているスティーブンだが、これほどまで簡単に脱獄できるものなのか。書類を偽造して本物とうまくすり替えたり、奇抜な衣装を手に入れて堂々と刑務所から出たりする。ムショ内の沙汰もカネ次第とばかりに、潤沢な裏金でフィリップと同房になったり厚待遇を得たりするが、そのカネの出所や人を動かす仕組みなど一切明らかにされないため、ご都合主義にしか映らない。
唯一、スティーブンがエイズ患者になりきるために激ヤセするエピソードが、本当に頬がこけアバラが浮き出たジム・キャリーの肉体でリアルに再現されていたが、それ以外の部分でのディテールは相変わらず乏しい。俳優にここまで役作りをさせるのならば、脚本そのものをもっと練り込むべきだろう。ユアン・マクレガーに至っては、なぜ彼がフィリップの役を演じなければならないのかわからないほど存在感が薄かった。どうせなら、映画全体を壮大なホラ話しにして、見終わった後に観客が「見事に騙された」と思うくらいの仕掛けがあれば楽しめたのだが。。。
(福本次郎)