蜂が大活躍するドリームワークスの新作アニメ映画(70点)
ドリームワークス製作のアニメといえば、何が思い浮かぶだろうか。アニメといえばディズニーの印象が強いが、このドリームワークスも多くの大ヒットアニメ映画を産出している。超ヒットシリーズの『シュレック』もそう、近年では『マダガスカル』や『森のリトル・ギャング』もドリームワークスが関わっている。年々表現力に関しても向上しているドリームワークスの新しいアニメ映画が2007年秋に公開になった。タイトルは『ビー・ムービー』。英語ではB級映画のことを「B Movie」というのだが、蜂の"BEE"とB級の"B"を掛けて『ビー・ムービー(BEE MOVIE)』という面白いタイトルだ。
今回の声優には錚々たるメンバーが顔を揃えている。まずミツバチの主人公バリー・B・ベンソン役にはジェリー・サインフェルドが扮する。日本ではそこまで有名ではないがアメリカでは知らない人はいないくらいのお茶の間のスターである。コメディアンの彼は『となりのサインフェルド(Seinfeld)』というテレビ番組に出演し、この番組が大成功。番組が終了した今でも何度も再放映されている。
それから人間の女性ヴァネッサに扮するのは『コールド・マウンテン』でアカデミー助演女優賞を受賞したレニー・ゼルウィガー。今年はこの『ビー・ムービー』以外に目立った動きは見られなかったが、来年には『かけひきは、恋のはじまり』と『CASE NO.39』の公開が控えている。
その他の声の共演はキャシー・ベイツ、クリス・ロック、マシュー・ブロデリック、ジョン・グッドマン、ラリー・ミラー、ラリー・キング、スティング、レイ・リオッタ等がいる。ディズニーは有名俳優はここまで大勢使わないが、ドリームワークス作品には常に有名俳優を取り揃えている。話題作りにはなるので、それが良いのか悪いのかはわからないが、声優1本でやっている人の機会が少なくなる様に感じる。
ストーリーはというと、ミツバチのバリー・B・ベンソンがミツバチの大学を卒業するところから始まる。これから新しい世界が始まると胸躍らせていたバリーだったが、大学卒業後の進路は蜂蜜作り。ミツバチは蜂蜜を作るという宿命に他の新社会人の蜂達は疑問を感じないが、バリーだけはそれに疑問を抱く。そして外の世界へ出ることを決意する。蜂の巣を出た彼は新しい世界に夢中になり、ヴァネッサという人間の女性に出会う。それから彼らは心を通わす様になるが、ある日彼らがスーパーマーケットに行ったとき、バリーは大量の蜂蜜が売られているのを発見してしまう。人間により、大事な蜂蜜が盗まれたと思ったバリーは自らその蜂蜜の出どころを調査し始める。そしてそれが大きな事件へと発展するのだった。
今回のドリームワークスによるアニメーション映画『ビー・ムービー』は数あるアニメ作品の中でも非常に分かり易く現代社会を皮肉っている。そして進路に迷っている人が観ると意外にも共感してしまうかもしれない。学校を卒業したらすぐに就職し、死ぬまで蜂蜜を作り続けるという終身雇用を素晴らしいとする蜂社会に疑問を持つバリーは現代の若者の考えにぴったりと当てはまる。そんなバリーは映画の中でニートになり、親にいろいろと言われながらも人生を模索する。この状況や心境はなかなか子供にはわかりにくいだろう。随分と子供っぽさを払拭したアニメ映画である。
この映画の中には蜂たちが蜂蜜を作る工場が何度も登場するのだが、その中で大量の蜂達がせっせと働く姿は、あの有名映画を思い出さずにはいられなかった。それは、そうフリッツ・ラングの『メトロポリス』である。しかしながら、蜂達は『メトロポリス』に出て来る労働ばかりさせられる疲れた人間達とは違い、蜂蜜作りに誇りを感じ嬉々としている。そのあたりはさすが昆虫である。
『ビー・ムービー』は確かに人生に迷う蜂が主人公の話だが、暗い物語ではない。やはりアメリカの一般向けのアニメーションなので、コメディである。冒頭のドリームワークスの社名が出るところから凝っていておもしろいし、特に特別出演のラリー・キング(ビー・ラリー・キング)やスティングには笑わされた。それからあの世界的スターのくまのプーさんも特別に出演しているのだが、蜂蜜を持っていることが災いになり、とんでもない事に巻き込まれてしまうのだ。最高に笑えた瞬間だった。
いろんなメッセージを含んでいるこの作品だが、肩肘張らずに観るのがやはり良いだろう。見どころはやはり特別出演人だが、それ以外にも、実写の時にはあまり気付かなかったが、レニー・ゼルウィガーの声が甘ったるくてとても良かった。この蜂映画の『ビー・ムービー』は現代社会を皮肉りつつ新鮮な笑いで存分に観客を楽しませてくれる生き生きとした作品だ。
(岡本太陽)