◆単なる動物映画を超えるデキだが、あざといCGはビミョー(80点)
「子供と動物には勝てない」というのは映画界の通説。あどけない子供や、愛くるしい愛玩動物がスクリーンに映ろうものなら、たちまち観客は相好を崩す。ただ、子供や動物のかわいさだけで客が呼べる映画というのは、往々にしてキャラクターは平板、ストーリーはグズグズという代物になりがちだ。『ビバリーヒルズ・チワワ』は、その点、2つの意味で「動物映画」ではない。
ヒロインはビバリーヒルズの豪邸で飼われるチワワのクロエ(声:ドリュー・バリモア)。宝飾品や新着ドレスに身を包み、プールサイドでの日光浴やエステざんまいの日々を送るセレブ犬だ。そんなクロエが旅先のメキシコで迷い犬となり、一転してホームレス生活に転落。慣れない空腹と汚れた毛並みを抱えてビバリーヒルズを目指すが、犬泥棒に拉致されたり、大事な首輪をだまし取られたりと、トラブルが次々に降りかかり……。
「ストリートの現実」の中に放りこまれても、委細かまわず「ビバリーヒルズの論理」を通そうとする世間知らずのクロエに爆笑は必至。メキシコ国内を転々と移動する山あり谷ありのストーリーは、緩急が抜群でダレるところがない。クロエに身分違いの恋をする雑種チワワのパピ、悪玉ドーベルマンのディアブロ、善玉シェパードのデルガド(声・アンディ・ガルシア)といった脇役犬のキャラも十分に立っている。かつてディアブロに敗れて警察犬を辞めざるを得なくなったデルガドなどは、ハードボイルド小説の主人公さながら。そのトラウマを乗り越えて再起する姿は、誤射をきっかけに銃を撃てなくなった『ダイ・ハード』の制服警官のそれを思わせる。
闘犬場に拉致されたり、列車から飛び下りたり、ピューマに襲われたりといった人生最大のアドベンチャーを経験するうちに、クロエはドレスや靴、ダイヤの首輪といった「セレブ犬の証し」を次々と無くしていく。だが同情はご無用。それはセレブ犬のおごりを捨て、犬本来のアイデンティティや、チワワという誇り高き種族の「内なる声」を取り戻すための道程なのだから。そう、この作品、チワワがかわいいだけの映画じゃない! 平板ならざるキャラクターと、グズグズならざるストーリーを備えた、動物映画の範疇を超える良作だ。最初に「動物映画ではない」と書いた理由のひとつはそこにある。
「動物映画ではない」もうひとつの理由は、画面に映る犬たちの顔や表情が、必ずしも本当の犬のそれではないこと。早い話がCGを使いすぎなんですよ。シェパードがチワワをくわえて走るシーンなどをCGで作っているぶんにはよかったが、セリフに合わせて犬たちに「口パク」させるのは笑止。さらに首をひねるのは、犬キャラが目尻を下げて笑ったり(実際の犬は笑わない)、怒る時に眉を吊り上げたりすること(これじゃ人間の感情表現だよ)。たとえ愛犬家でも――あるいは、愛犬家ならなおさら――この手のあざとい加工は喜ばないんじゃないかしらん?
(町田敦夫)