ヒューゴの不思議な発明 - 樺沢 紫苑

子供と一緒に見る映画ではないと思いますが、ディープな映画ファンほど心に引っかかるでしょう。(点数 80点)


(C)Paramount Pictures 2011

マーティン・スコセッシの映画というのは、非常によく作りこまれています。
 しかしながら、あまり深い部分まで作られているので、
映画ファンではない、普段あまり映画を見ない人たちにとっては、
敷居が高すぎる気がします。

 スコセッシ作品で私が最も好きなのは、
『ギャング・オブ・ニューヨーク』です。

 映画史に残る傑作で、ディカプリオ主演作の中でも
私はナンバーワンだと思いますが、ニューヨークの歴史、
アメリカの移民の歴史を知らないと、
全く理解不能な作品になっていますので、
日本ではディカプリオ主演作でありながら、
全くヒットしませんでした。

 私はこのスコセッシの観客に迎合しないマニアックぶりが大好きなのですが、
この『ヒューゴの不思議な発明』は、良くも悪くも
スコセッシのマニアックぶりが発揮されている映画になっています。

 予告編を見ると子供向けファンタジーのような雰囲気ですが、
おそらく子供が見ても、ほとんど楽しめないような映画なのです(笑)。

 例えば、「メリエス」というのが非常に重要なキーワードとして
登場していますが、「メリエス」なんてよっぽど映画ファンでないと
知らないと思いますが、そうした「映画誕生」、
映画草創期のエピソード知っているか知っていないかが、
この映画を深いレベルで感動できるかどうかに関わっていると思います。

 もちろん、誰が見てもわかるようには作られていますが、
思い入れというか、共感度。その思い入れの温度差に影響を及ぼします。

 この映画の重要な部分で、映画を映写機で映してみんなで
見るシーンがあるのですが、私はそこで号泣しました。

 やっぱり映画というのは、スクリーンに投影して見るのが映画だから。
 自分の大切な人と一緒に見ると、さらに映画は楽しいものになるわけですし。

 そういう映画の根源的な楽しさをストレートに伝えている。
 『ニューシネマ・パラダイス』のような映画愛にみちあふれた
作品なのですが、DVDで映画を見る人が増えている昨今、
「映画を投影して、みんなで見る楽しさ」が、
どこまで理解されるのだろう? ということも脳裏をよぎりました。

 テーマ的に言うと「父親探し」の作品。
 『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』と似ています。
 
 父親がのこした遺品。
 そこに託されたメッセージを解き明かさないといけない、
という執拗なこだわり。

 そこを解くことが、父親を乗り越える。
 父の死を乗り越えることで、大人へと踏み出していくという話に
つながっていきます。

 もう一つ、駅の時計台に住む少年ヒューゴ。
 時間ということで、何がしかのテーマが隠されていると思いますが、
私は「過去の受容」ということが心に響きました。

 父の死、あるいは過去の悲惨な思い出。
 あるいは、戦争。受け入れがたい過去のネガティブな出来事。

 でも、そこから目をそむけては、先にすすめない。
 「過去の受容」なしに、未来はない、という。

 またこの映画は、「父性」の映画でもあります。
 「父親的愛情」という芋での父性、「リスペクトの対照」としての父性。

 ヒューゴの父親探しては、別なストーリーラインが、
やはり「父性」のテーマに結びついていきます。

 『ヒューゴの不思議な発明』は、噛めば噛むほど深いテーマや
メッセージが滲みでてくるスルメのような映画。

 黙って座ってて見ていて「ああ、おもしろかった」という
『タイム』のような映画ではありません。

 子供と一緒に見る映画ではないと思いますが、
ディープな映画ファンほど心に引っかかるでしょう。

樺沢 紫苑

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