◆ギリシア神話の神々やクリーチャーが現代の米国によみがえる(70点)
『ホーム・アローン』や『ハリー・ポッター』シリーズのクリス・コロンバス監督が、ギリシア神話を題材にした同名の児童文学を映像化。17歳のパーシー・ジャクソンは、メトロポリタン美術館で古代ギリシアの展示を見学中、突如、翼の生えた怪物に襲われる。思わぬ人物の助けで危機を脱したパーシーは、自分が海神ポセイドンと人間とのハーフであること、全能の神の最強の武器<ゼウスの稲妻>を盗んだ疑いをかけられていることなどを聞かされて……。
ゼウスやアテナといったギリシア神話の神々が、現代ニューヨークの、それも「エンパイアステートビルの上」で暮らしているという設定は、リアリズムを問われないお子様向けの物語ならでは。そのくせ神々がしばしば「下界」で人間の女を孕ませるというのだから(半人半神のハーフが何十人も暮らす訓練所がある)、うっかりお子様に観せると、答えに窮するような質問をされるかもしれない。だが、ストイックな一神教の神様とは違い、ギリシア神話の神々は、もともとスケベで欠点だらけのしごく人間的な存在だ。本作はそんな神話の記述を下敷きに、ゼウス、ポセイドン、ハデスといった有名どころの神々や、メドゥーサ、ケンタウロス、ミノタウロスといったクリーチャーに、適材適所のキャラクターを割り振っている。
主演のローガン・ラーマンは、昨年公開の『3時10分、決断のとき』で強い印象を残した18歳。彼を得たことで、原作では12歳だった主人公の年齢が17歳に変更された。母親を冥界にさらわれたパーシーは、半人半獣の親友グローバー、アテナの娘のアナベスとともに全米を旅し、人間を石に変えるメドゥーサや、5つの頭を持つ怪物ヒュドラの魔の手を逃れていく。ついに探し当てた冥界(地獄)の入り口が、有名な「HOLLYWOOD」という立て看板のすぐ横にあるのは、映画業界人ならではの内輪受けギャグか。
ピアース・ブロスナンが半人半馬のケンタウロス、ユマ・サーマンが頭髪の代わりにヘビを生やしたメドゥーサを演じているのも見どころ。ほとんど不自然さを感じさせないVFXには恐れ入る。フルCGの怪物たちはいささか作り物っぽいが、それでも迫力はかなりのもの。パーシーが縦横無尽に操る水も、CGで表現するにはかなりの技術を要したはずだ。クライマックスのシーンでは、空飛ぶ靴を履いたパーシーが、<稲妻>を盗んだ意外な犯人と、エンパイアステートビルの外で空中戦をかわす。これがハリポタ・シリーズでおなじみのクィディッチをも上回る興奮度で、クリス・コロンバスの面目躍如たるところだ。
単なるアクション物にとどまらず、学校になじめない子どもや、親と離れて暮らす子どもに温かな目を向けているのも、コロンバスらしいところ。緩急を利かせた演出は、さすがに手堅い。
余談だが、怪物に襲われている最中、味方のケンタウロスに護身用の剣(見かけはペン)を渡されたパーシーが、「これ、ペンじゃないか」とつぶやくシーンには期せずして笑ってしまった。「This is a pen.」はかつて多くの日本人が真っ先に習った英語だが、実際にアメリカ人が「This is a pen.」と口にしたのは初めて見ました。
(町田敦夫)