◆作品全体は今ひとつわけが分からないが、川上未映子と仲里依紗がエロチックでいい。終戦直後に奇跡のように輝いた一瞬のユートピアは見事に表現されていた(72点)
この作品については、圧倒的に川上未映子と仲里依紗だ。2人がエロチックでいい。見ているだけで幸せだった。個人的に、2人が非常に好みでもある。
原作は太宰治の同名小説。暗いイメージの太宰の中では、妙に明るい小説ではある。監督は奇作「パビリオン山椒魚」の冨永昌敬。敗戦直後、結核療養所「健康道場」に入った主人公「ひばり」(染谷将太)の療養の日々を描く。療養生活といっても、道場の暮らしは奇妙なほど楽しげだ。若くてカワイイ女の子(仲里依紗)や、美人のお姉さん(川上未映子)がいて、学園生活のラブコメみたいでもある。たぶん、周囲は焼け跡で「火垂るの墓」みたいな悲惨な状況なのだろうけれど、道場の中だけは、奇跡のような輝きを放っている。療養所なので、もちろん、同居者が死んだりもするが、主人公は結構もてていて、明るい雰囲気は変わらない。お互い本名ではなくあだ名で呼び合い、「やっとるか」「やっとるぞ」と不思議な挨拶を交わし合う、人工的な約束事の世界。地獄の中でこそ輝く一瞬のユートピアのような世界は見事に表現されていた。
退色気味の色調にして、弦楽器を使った音楽を流し、今は使われていないセリフを硬直に話す。文芸映画としても、それで成立している。しかし、だから面白いかというと、そうでもない。主人公の気持ちが今ひとつ分からないので、ドラマは盛り上がらない。何だか腑に落ちないままに、話が終わってしまった。
それにしても、床を延々と拭く川上未映子は良かった。監督も分かっているのだろう。やや変態的ではあるが、この映像には魅了された。仲里依紗の金歯も良かった。主人公同様、観客も2人に惚れないと、この作品は楽しめないだろう。
逆に言うと、女性が見た場合、本作はどう映るのだろう。イケメンの染谷将太や窪塚洋介に「萌える」ことは出来るのだろうか。
(小梶勝男)